『東京新聞』2006年11月11日付

交付金穴埋めに四苦八苦 国立大学法人化から2年


国立大学は一昨年の法人化で、文部科学省からの運営費交付金や人件費が減らされた
。ブランド力のある一部の大学は外部資金導入も可能だが、地方の大学にとっては容易
ではなく、「大学間の格差が広がる」と懸念する声も。東京新聞が行ったアンケートで
は、人件費削減のため、多くの大学で教職員削減を余儀なくされ、大学運営の不安が浮
かび上がっている。

人件費削減については、最もブランド力があるとみられる東京大でさえ「退職者の補
充の仕方、職員構成全体の若手化といった中で、人件費の削減は確実に実行していきた
い」とし、対応を迫られている。東京海洋大では教員一五人、事務職員十人の削減計画
を打ち出している。横浜国立大も教員二十人、職員十二人の削減を予定する。

他には、「教育・研究に影響が出ることを極力避けるための方策や学内の人的資源の
弾力的な運用を検討中」(群馬大)としたり、「退職教職員を含む学外からの無償によ
る授業提供など教育・研究の質の維持、向上に取り組んでいる」(宇都宮大)と苦肉の
策を模索する大学もある。

一方で、正規職員より非常勤講師への影響が大きいとの見方もある。「非常勤講師に
ついては来年度まで総担当時間数を毎年5%削減予定」(横浜国立大学)、「単価引き
下げを含む経費圧縮を通じて経費削減に取り組む」(一橋大)などとしている。

教育・研究に影響
千葉大文学部の小沢弘明教授

非常勤講師の人件費が減らされると、講師の生活が成り立たなくなる。すると若手研
究者が大学に残らなくなり、将来の教育・研究への影響が心配される。退職金不補充や、
助教授、教授への昇進の道が狭くなると一番影響を受けるのが若手研究者だ。例えば
学部内でベテランしか研究者がいない分野でベテランの退職後に公認を補充しないと、
その学問分野が大学で永久に消滅してしまう心配がある。大学の人件費削減の結果。こ
うした”危機”は全国的に見られるのではないか。

努力次第で増額も
文部科学省国立大学法人支援課

運営が厳しいという声は確かにあるが、予算が自由になったメリットを指摘する声も
ある。国費が投入されていることに変わりはなく、現在の国の財政を考えれば、国立大
学だけが右肩上がりになることはありえない。毎年減額もあり厳しい一方で、努力した
大学には増額する仕組みもある。運営費交付金制度については、中期計画の区切りであ
る二〇〇九年度まで見直しはしない方針だ。

ロケ受け入れ 作物販売も

各大学とも運営費交付金の減額を穴埋めするため、あの手この手の増収策を考えてい
る。千葉大では柏市の環境健康フィールド科学センターで園芸学部が生産した農作物を
販売。原則として平日午後一時から(第一,第三水曜を除く)だが、開場前には数十人
が列をつくり十分程度で売り切れてしまうことがほとんど。担当者は「味の良さ、大学
で実習として作っているという安心感があるのでは」と放している。

一九三〇年代前半のれんが校舎や国の重要文化財の帆船「明治丸」が残る東京海洋大
では、法人化を機に映画やドラマのロケを受け入れ始めた。今では日に数件の問い合わ
せが入るほど好評。担当者は「東京海洋大を広く知ってもらう広報としての役割が主だ
が、使用料も入ってきて一石二鳥」と話す。昨年度は美大生の学園生活を描いた映画「
ハチミツとクローバー」(高田雅博監督)や、テレビの人気ドラマ「野ブタ。をプロデ
ュース」など一九回のロケを受け入れ、三百万円の臨時収入を稼ぎ出した。ただ「教育
・研究に差し障りのないように事前の打ち合わせが必要になる」と苦労話も聞こえてく
る。

東京芸大は、教職員らの作品を広く展示・販売する「芸大アートプラザ」を昨年十一
月オープン。担当者は「教職員の作品を通じて芸大を広く知ってもらうと同時に、利益
を法人化後に減額した教育・研究費に使ってもらおうとの試み」と説明。展示作品は学
内審査によって決めている。

東京大も土地建物を貸し付けたり、余裕資金を運用するなど資産活用に取り組む。横
浜国立大は「寄付相談窓口を明確にし、今後アクションプランを策定して増額に取り組
む」としている。