『東奥日報』社説 2006年11月10日

教育基本法改正案/審議を十分に尽くすべき


衆議院の特別委員会で行われている教育基本法改正案の審議が、採決をめぐる
重要な局面にさしかかってきた。

与党は、前の国会で約五十時間審議されたこと、野党の要求を入れて地方公聴会
の開催を増やすなどしたことから来週中に委員会で採決して本会議へ上程し、参議
院に送る方針だ。

対案を出している民主党を含む野党は改正案に反対しているが、安倍首相が「今国
会の最重要法案」と位置づける改正案を会期内に何としても成立させたい。与党はそ
う考えている。

ただ、一九四七年に公布された現行法は戦後教育の柱になってきた。教育の憲法と
言われる重要な法律だ。改正すべきかどうかについての国民的な議論や関心の高ま
りが欠かせない。

だが、今国会での議論は、いじめ自殺、高校の必修科目の未履修、教育改革タウンミ
ーティングやらせ発言など目の前の問題が中心になっている。改正案そのものの審議
は影が薄い。十分とは言えない。なお議論すべきではないか。

改正案には教育のあり方を大きく変え、賛否が分かれる論点もある。教育と政治の距
離をどう考えるかも、丁寧に議論してもらいたい大事な点だ。

現行法は、教育は教員が国民に直接的に責任を負って行われるべきとし、政治や行
政は、自主的に行われるべき学校・家庭教育に口を出さないよう求めている。

改正案にも現行法と同じ「不当な支配に服することなく」という言葉があるが、教育は
この法律(改正案)などの定めで行われるべきとする。国が関与できる道を開こうとし
ている。

保護者によって考え方が違う家庭での子育て、教育のあり方を国が定めるという現行
法にはない新しい条文も設けている。踏み込みすぎではないかという批判がある。

もう一つ大きな論点になっているのは、教育の目標として徳目を掲げることの是非だ。

現行法は、子どもたち一人一人が自発的な精神を養いながら人格を形成していくのを
教員が支えていくこと、つまり自主性を大切にしている。背景には、国が上から国家観
や生き方を国民に強制した戦争中の教育に対する深い反省がある。

改正案では「公共の精神を尊ぶ」とか「伝統と文化を尊重し…我が国と郷土を愛する態
度を養う」などの道徳規範も教育の目標に掲げている。

これにも、国にとって望ましい国民を育成するかのような内容だという異論、公共の精
神や国を愛する態度とはどんな内容でどう評価できるのか、心のあり方まで法律で定
めていいのかという疑問がある。

東京大学の基礎学力研究開発センターが全国の公立小・中学校の校長を対象にアン
ケートをしたところ、66%が改正案に反対という結果が出た。教育現場の抵抗感は強
いようだ。

地方公聴会でも、改正案に賛成している出席者から愛国心は法律で押し付けない方
がいい、改正を急ぐべきではないといった意見が出されている。

そうしたさまざまな声に応えるためにも、じっくりとした改正案の審議が必要ではないか。