『科学新聞』2006年10月27日付

大学研究の困窮 顕著

配分研究費が大幅減少
法人化以来、厳しい状況続く 文科省調査

  あまりにも貧しい大学研究室の実態が明らかになった。文部科学省の調査による
と、国立大学の研究室に配分されている研究費は、院生・ポスドク1人あたりに換算
すると、文系では月1500円、理系でも月1〜2万円だという。しかも教員へは1
円も配分しないという前提で。科学技術基本法が成立して以来、科学技術関係予算は
増え続けているが、その一方で研究の基盤は徐々にやせ衰えてきている。このままで
は、日本の将来に大きな禍根を残すことになりそうだ。

文部科学省は、大規模総合大学から単科系大学、大学院大学など9大学を対象に、運
営費交付金と授業料収入が、研究室へどのように流れているかをサンプリング調査し
た。対象となったのは53研究室。基本的な資金の流れとしては、大学本部、学部、学科
それぞれで共通経費を取った後、各研究室に配分される。

大規模総合大学理学(実験系)の場合、学部等に配分される経費は約21億4000万円、
そのうち学部等共通経費に約11億円(51.4%)が充てられる。学科全体に配分された
約10億4000万円のうち、約7割が学科等共通経費として水光熱費やシステム維持費
等に充てられる。A研究室には、教員4名、ポスドク・大学院生14名がいるが、配分経
費は約370万円、これをポスドク・学生1人あたりで割ると月額2万円になる。A研究室
では教員が科研費等6300万円を獲得し研究を遂行している。

中規模総合大学人文科学の場合、学部への配分は約2億1000万円、共通経費には約
1億1000万円(51%)。学科では、約3割を共通経費として和洋雑誌購入費やコピー代
に充てている。B研究室には、教員1名、ポスドク・大学院生22名が所属するが配分経
費は約40万円で、1人あたり月額1500円となる。教員が科研費100万円を獲得している。

理工系大学のC研究室では、約7億8000万円(学部)→約3億6000万円(学科)→約90
万円(研究室)となっており、大学院生7名で割ると月額1万円強の教育・研究指導経費
となっている。実質的には、競争的資金2300万円で研究室が運営されている。

今回調査した6割の研究室が、ポスドクや大学院生への教育・研究指導経費が月額1〜
2万円台だった。

また、多くの研究室では研究生等を受け入れていることから、実際の経費はさらに少な
いことになる。同時に行ったアンケートでは、約85%の研究室が配分経費が法人化後
に「削減された」「削減見込み」と答えており、約12%は「もともと少ないので影響ない」
としている。

大学院生は年間53万5800円(標準額)の授業料を支払っている。もちろん施設を使っ
たり、研究指導を受けたりと各種のサービスを受けているのだから授業料がそのまま
研究室に配分されるというわけにはいかないが、競争的研究資金を獲得しなければ、
教育・研究指導経費が得られないというのは”異常な事態”だといえる。

共通経費を削ればいいという議論もあるが、それも限界だ。学部等では、学術雑誌や
定期刊行物の購入を整理・削減し、研究機器も更新期間を長期化したり中古品を活用
するなど経費削減を進めている。水光熱費や燃料を削減するために、残業時間削減、
エアコンの温度設定の見直し、一部消灯、節水バルブの使用などに加え、研究室への
課金などを行って経費削減意識を高めているところもある。ある大学では井戸水を利用
して、水道代を切りつめている。

国立大学が法人化されて以来、運営費交付金は毎年約100億円ずつ減らされてきた。
文部科学省の幹部は「もう限界が来ている。これ以上運営費交付金を下げれば研究
環境がすさんでしまう」と話す。厳しい財政状況の中、何を選択するのか、国の姿勢が
問われている。