『東京新聞』2006年11月8日付

教育観は? 不完全燃焼
教基法改正案 衆院審議に“出口”


 安倍晋三首相が今国会の最重要法案と位置付ける教育基本法改正案は、衆院
通過日程をめぐる与野党の駆け引きが本格化し、衆院審議の「出口」が見えてきた。
しかし、審議は高校必修科目の未履修と、いじめ自殺問題に集中。首相の教育観を
披露する機会はほとんどなかった。法案成立が最優先とはいえ、審議を通じて、目指
す教育の在り方を国民に伝えようとしていた首相にとっては、肩すかしを受けた格好
に。満足度も百点満点とはいかないようで…。 (岩田仲弘)

 「教育再生」を進める安倍内閣にとって、教育基本法改正は「精神的支柱」でもあり、
今国会での成立は至上命令だ。衆院特別委員会での審議は既に七十五時間を超え
た。うち先の通常国会では四十九時間審議しているが、当時官房長官だった首相は、
参考人招致を除きすべての審議に出席している。「相当な時間だ。やりすぎだ」(与党
幹部)との思いは、首相も同じだが、その分、自身の教育に対する情熱をアピールする
場面としようという狙いもあった。

 ただ、実際の委員会審議は、首相や担当閣僚が存分に教育観を語る機会もなく推移
している。首相就任後の国会審議は先月三十日の特別委が初めてだったが、質疑はほ
とんどいじめと未履修問題に費やされ、その後の委員会審議も両問題一色。

 今後、総括質疑などで首相が答弁に立つ機会もあるが、新たにタウンミーティングの「や
らせ質問」問題に対する野党攻勢も強まりそうで教育観どころではなさそうだ。

 もともと、現改正案は自民党と公明党が「愛国心」の表記などをめぐり三年間の協議を経
て到達した「妥協の産物」。首相も含めた自民党保守派にとっては、十分満足できない部
分もある。首相側近の下村博文官房副長官も五日の講演で、法案について「百パーセン
トすばらしいと思っていない部分もないわけではないが、よりベストに近い」と、首相の微
妙な胸の内を代弁している。

 民主党の法案には「愛国心」の表記をはじめ、自民党が共鳴する部分も多く、首相に民
主党との修正協議に期待がなかったとはいえない。ただ、その機運は事実上消えている。

 大所高所に立った教育論議がないまま、百パーセント満足いかない法案が成立しつつ
ある。自民党保守派議員同様、首相自身も、内心は複雑な思いがよぎっている。