『東奥日報』社説 2006年11月5日付

質問誘導を許してならぬ/タウンミーティング


 初めは新鮮でも長く続けるとよどみが生じる。五年前、就任したばかりの小
泉純一郎首相が鳴り物入りで始めた「国民対話・タウンミーティング」だ。

 二〇〇一年六月十六日の青森市、鹿児島市を皮切りに〇六年九月二日の
八戸市、横浜市まで全国で百六十数回行った。

 本県では〇二年七月二十日に弘前市、〇四年六月五日に青森市と四回開
催された。

 小泉内閣の最後を飾り九月二日に八戸市で行われたのが「教育改革タウン
ミーティング」である。ところが、あろうことか主催者側の内閣府が、質問者に教
育基本法改正案に賛成する発言を促す「参考資料」を用意していた。

 タウンミーティングは“出前内閣”の性格を持ち大臣、副大臣が全国の都市を
訪ねる。テーマを設定、地域住民の声を直接聞き国の政策に反映、また政府側
のPRの場でもある。

 二時間という時間的制約はあるが本来、自由闊達(かったつ)な意見交換の場
だ。質問誘導や「想定問題集」まがいでは「国民対話」が泣く。

 この問題は衆院の教育基本法特別委で共産党の高橋千鶴子、石井郁子両議
員が追及した。これに対し内閣府の土肥原洋総括審議官が「活発な意見を促す
きっかけをつくる目的で、参加者の発言の参考となるような資料を作成する場合
もある」と釈明。

 内閣府が県教委に示した質問項目案は三パターンあり、いずれも教育基本法
改正案に賛成する内容だ。

 質問予定者は相当絞り込まれた感がある。内閣府の要請を受け県教委教育
政策課、三八教育事務所、三戸郡内の中学校長がかかわる。校長が同中PTA
会長を質問予定者に推薦した。

 県教委は三パターンのうち「一番穏当」な二つ目のパターンの意見を述べるよ
う要請。内閣府からは「自分の言葉で質問を」「お願いされて、とは言わないで」
の注意があったという。

 ところが、PTA会長は急用などでタウンミーティングに参加しなかった。想定質
問、質問誘導は結局、幻に終わった。

 「教育改革タウンミーティング・イン八戸」には当時の小坂憲次文科相、中央教
育審議会委員の梶田叡一兵庫教育大学長、ジャーナリストで東京・品川区教育
委員の細川珠生さんが出席。参加者約四百人と対話した。

 小坂文科相が教育改革の必要性と教育基本法改正案の詳細を説明。その後、
質疑応答となり会場から主婦、学生、教員ら約十人が質問した。

 このうち四人が教育基本法改正賛成の意見を述べた。想定文案に酷似した質
問もあった。

 一方で二人の参加者が教育基本法改正に明確に反対した。賛成者が多かった
が、反対者の意見にも耳を傾けている。大臣は堂々と政府の主張を展開すればい
いのだ。

 それなのに「やらせ」まがいの質問誘導とはなんと姑息(こそく)なやり方か。

 高校必修科目の履修漏れ、児童生徒のいじめ自殺…。教育行政は地に落ち、教
育委員会は存亡を問われている。

 自作自演、やらせ体質で真の教育再生ができるのか。役所、役人の体質再生が
先だ。