『中国新聞』社説 2006年11月4日付

「やらせ」質問 甘く見られている国民


 政府主催の「教育改革タウンミーティング」で、内閣府が出席予定者に会場
からの「やらせ」の質問案をあらかじめ渡していたことが分かった。今国会で継
続審議中の教育基本法改正案に賛成の立場からの「やらせ」で、細かい演技
指導まで付いていた。政府が率先して民主主義の形骸(けいがい)化を進めて
いるようで、やりきれない。

 一日の衆院教育基本法特別委員会で、共産党の石井郁子議員が裏付けの
文書を見せながら質問、内閣府が質問案の作成を認めた。

 問題のタウンミーティングは、九月二日、青森県八戸市で当時の小坂憲次文
部科学相も出席して開かれた。石井議員の質問などによると、八月三十日に出
席予定者に、地元教育事務所を通して内閣府の質問案がファクスで送られてき
た。そこには教育基本法改正案に賛成の立場からの質問のひな型として(1)時
代に対応して見直すべき(2)改正案の「公共の精神」に共感(3)教育の原点は家
庭教育―の三つが書かれていた。

 九月一日には青森県教育庁から「内閣府からの注意事項」として「あくまで自
分の意見を言っているという感じで」とか「棒読みは避けて」といった細かい演技
指導まで送られてきた。当の出席予定者は当日、会場の駐車場がいっぱいのた
め欠席したという。

 しかし、内閣府がネットに載せたタウンミーティング議事要旨によると、ひな型に
似た表現の質問がみられる。内閣府当局者も「タウンミーティングの議論の活発
化のために資料を提供することもある」と答弁しており、複数の出席者に依頼した
可能性はある。さらに他のタウンミーティングへの疑念も残る。

 このタウンミーティングは小泉純一郎前首相時代のことだが、安倍晋三首相は
当時、内閣府を統括する官房長官であり、当事者だった。内閣府のこうした「やら
せ」は、地方の場を甘くみている表れではないか。それを唯々諾々と受ける地方
の教育機関や、周辺の市民にも反省すべき点があろう。さらに、一般国民にも、
こうした場での一種の「やらせ」を容認する空気はないか。そうした「なあなあ」が
民主主義を堕落させるのである。

 安倍首相は「国民と双方向で意見交換できる大切な場であり、誤解があっては
ならない」と内閣府を注意した。塩崎恭久官房長官も事実関係の調査を命じた。真
の民主主義へ、きっちり見直したい。