『秋田魁新報』社説 2006年11月1日付

教育基本法改正 議論は深まっていない


 教育基本法の改正をめぐる国会審議が再開された。改正に向けた政府案を今
国会の最重要法案と位置づける政府は、前国会での50時間近い審議で論点は
出尽くしたとして早期成立を目指している。しかし、基本的な部分であいまいな点
が多いのをはじめ、教育現場の問題が次々に露呈し、課題山積の状態だ。うわべ
を繕う拙速審議で済ますわけにはいかない。

 教育改革に関しては目下、国会審議のほか、安倍晋三首相が先ごろ官邸に設置
した教育再生会議の2本立てで論議されている。これに文部科学相の諮問機関で
ある中央教育審議会(中教審)を加えると実に3本立ての状態だ。再生会議は政府
案での教育基本法改正に意欲を燃やす安倍首相の意向を受けた組織だが、文科省、
中教審との関係や役割分担については、いまひとつ分かりにくい。

 事実、文科省は再生会議発足に当たり「文科省外し」ではないかと危機感を強め
たほか、官邸主導で進められる改革を警戒する姿勢も見せているほどだ。

 教育基本法改正に向けた政府案では、教育の目的として「人格の完成」と、国家・
社会の形成者として「必要な資質を備えた国民の育成」を掲げている。教育の目標
には「公共の精神」に基づき「伝統と文化を尊重し」「わが国と郷土を愛する」態度を
養うことなどを据えている。ところが、こうした言葉から想起される概念について、人
格の完成と社会の形成に必要な資質のどちらに重点を置くのかなど、与党内部にも
受け止め方に違いが見られる。

 公共の精神、伝統と文化、国と郷土を愛することなどについても、具体的に意味す
るところはあいまいで、人によって異なる理解の仕方が出てくる可能性もある。こうし
た趣旨の政府案が成立した場合、教育現場で実際にどう教えていくかを定めるのは
学習指導要領であり、その改定を担うのは中教審と文科省である。政府案の成立を
再生会議が側面から援護し、成立後も教育全般への影響力を発揮するようになれば、
国家主導の教育改革になりかねない。

 政府案の中で教育行政にかかわる個所では、国と地方の「適切な役割分担」と「相
互の協力」をうたう。ところが政府の役割としては教育振興のための基本計画策定な
どを通じ、教育内容に踏み込めるようにしている。地方は政府の意向を「参酌」して地
方ごとに基本計画をつくるという構図だ。その場合、どこで政府の関与に歯止めをか
けるのか、明らかではない。

 教育の目的、目標のほか国と地方の関係を考えただけでも議論を深め国民の合意
を得なければならない点は多く、論点は出尽くしたなどとはいえない。

 教育現場では、いじめによる子どもたちの自殺が相次ぐ一方で、学校や教育委員会
がその実態を把握しておらず、あるいは把握しても責任転嫁のためか、実態を隠そうと
するきらいすらある。高校では大学受験に備えるあまり、必修科目の未履修問題が深
刻化している。教員の資質が問われ、教育委員会の役割と責任の見直しも大きな課題
として浮上した。そうした問題も包括した議論を求めたい。