『南日本新聞』社説 2006年11月1日付

[教育基本法] 学校現場の混乱にまず対処すべきだ


 継続審議になっている教育基本法改正案の国会審議が再開した。安倍晋三首
相が主張する「教育再生」に弾みをつけたい与党側に対し、野党は結束して阻止
する構えで、会期末ぎりぎりまでの攻防が予想される。

 折しも、学校現場では深刻な混乱が生じている。いじめによる児童・生徒の自殺
が相次ぎ、高校の必修科目の未履修問題も発覚した。教育基本法の原則論はさ
ておき、教育の在り方を根本から揺さぶる緊急課題を集中的に論議する衆院特別
委員会の姿勢は評価できる。

 いじめ自殺の問題はとりわけ重大だ。北海道の小学6年生女児の自殺は、表面
化するまで教育委員会が少女の遺書を1年も放置していたことが分かり、教委の
責任が指弾されている。福岡の中学2年男子生徒の自殺も、教師が率先していじ
めた事実がありながら校長も教委もいじめが原因との断定を避けている。

 これらのケースに限らず、学校や教委は自殺がいじめによると認めたがらない傾
向が強い。この7年間にいじめによる自殺が1件も発生していないという統計は、い
かに文部科学省が実情を把握しきれていないかの表れといえる。

 信じ難い数字がまかり通り、いじめや自殺の実態が見えにくくなっている。特別委
で安倍首相が「数字は実態を反映していない」と答弁し、調査方法の改善を求めた
のも当然だ。

 必修科目の未履修も、ルールや規範を守る大切さを教えるべき教育現場が、不正
に目をつぶってきた点で問題が多い。受験対策優先だからと暗黙の了解で実施して
いたとしたら究明が必要だ。難しい入試を課してきた大学の責任も問われなければな
らない。

 未履修の生徒には受験を控えて重い負担がのしかかる。一方で、適正に履修してき
た生徒にも不公平感が残る。足りない単位を補習で乗り切るにしても、受験指導のゆ
がみを応急措置で切り抜けるだけではなく、学習指導要領の見直しも含めた抜本策を
検討する必要がある。

 気がかりなのは、こうした教育現場の混乱が教育の荒廃によるものだという風潮を助
長し、基本法改正論議に拍車がかかることだ。改正案の争点である「愛国心」について、
国民的論議を深めることなく、政府案を力ずくで通すようでは禍根を残すことになる。

 今なぜ改正なのかという基本的な論点を詰める前に、目の前で起きている現実に学
校現場、教委、文科省が一体となって対処する方法を真剣に論議すべきだ。