『東京新聞』2006年10月31日付

教育 国会論戦が本格化
『基本法』より難題


 教育基本法改正論議が三十日の衆院特別委員会で本格化した。「教育再生」
を掲げる安倍晋三首相は、政府提出の同法改正案の今国会成立に意欲を見せ
たが、与野党の質問は、高校必修科目の履修漏れといじめ自殺の問題に集中。
政府側は陳謝と対応策の答弁に追われた。政府が子どもたちの不安を解消する
ことができなければ、今国会成立という政府・与党の大方針に狂いが生じる可能
性もある。 (政治部・佐藤圭)

 「毎日のように子どもたちの教育をめぐる悲惨な報道が続いている。文部科学省
として、どのように対応しようとしているのか」

 自民党のトップバッターとして質問に立った大島理森元文相は、未履修といじめ
自殺をめぐる文科省の対応をたださなければならなかった。

 自民党としては真っ先に、同法改正に向けた首相の決意を聞きたかったところだ
が、社会問題化する喫緊の課題を避けて通れないというわけだ。

 伊吹文明文科相は、未履修問題について「スピード感を持って対応したい」と述
べ、今週中に生徒の救済策を取りまとめる方針を表明。いじめ自殺についても、学
校現場が事実を隠ぺいしたり、教師が加担したりする例が相次いでいることから、
各自治体の教育委員会への「指導」のあり方などを検討する考えを示した。

 政府案の成立阻止で足並みをそろえる野党側もこの問題を見過ごすはずがない。

 「日本国教育基本法案」を提出している民主党の鳩山由紀夫幹事長は、提出者
としての答弁や質問で「政府案には、どこに未履修やいじめ問題の解決策がある
のか見えない」と批判するとともに「学校主権の確立」と国の最終責任を明確にし
た同党案をアピール。自民党からの修正協議の誘いにも「民主党案に賛成するな
ら、明日に採決してもらってもいい」とはぐらかし続けた。

 同党の野田佳彦元国対委員長はいじめ対策などを協議している政府の教育再
生会議をやり玉に。「大事な問題は再生会議にぶち込んでいる。再生会議の議論
を待ってから、教育基本法を議論すべきだ。『あべこべ内閣』では困る」とやゆした。

 改正そのものに反対する共産、社民両党も、いじめ問題を重点的に取り上げた。

 自民党は三十日夕の役員会で、同法改正案の今国会成立を目指す方針をあら
ためて確認。与党は今週中にも衆院通過のメドを立てたい考えだ。しかし、未履修
やいじめ自殺という国民の関心事をさておいて、採決に踏み切ることに国民の理
解を得ることは難しい。

 委員会終了後、未履修やいじめ自殺が審議に与える影響について記者団に問
われた首相は「教育再生のためには、何とかこの国会で成立させていきたい」と
強調した。まだ政府・与党の危機感は薄い。

■首相、教育観話せず

 三十日の衆院教育基本法特別委員会は、安倍晋三首相が自身の教育観をたっ
ぷり国民に披露できる“見せ場”になるはずだった。しかし、質疑は未履修といじめ
自殺の問題に集中。答弁の主役は伊吹文明文部科学相に譲った。

 象徴的だったのは、民主党の野田佳彦氏の質問。冒頭こそ首相に戦後政治の
総括を求めたが、すぐに話題は未履修問題に。野田氏は国の責任を追及した場
面では、わざわざ「首相はいいんです」と前置きし、直接の担当者の伊吹文科相に
質問をぶつけた。

 共産党の志位和夫委員長、社民党の保坂展人氏は主に首相に質問したが、ほ
ぼいじめ問題一色だった。

 政府側も世論を意識すれば不誠実な対応はできない。

 首相は、限られた答弁の機会に、いじめ問題でスクールカウンセラーの充実や
教育委員会の機能見直しなどに言及し、防戦に努めた。

 三十一日以降の審議に首相が出席する予定はない。首相の教育観を聞く機会
は先送りされた。 (政治部・篠ケ瀬祐司)