『沖縄タイムス』社説 2006年10月31日付

[教育基本法審議]改正急ぐ必然性あるのか


 教育の根本法である教育基本法改正案の審議が衆院教育基本法特別委員会で
始まった。政府と自民、公明両党は今国会での成立を図るため十一月上旬の衆院
通過を目指すという。

 教育は、言うまでもなく国家百年の大計と言っていい。その根本法は国の将来像
を映し出す。

 先の通常国会で約五十時間審議したことで、文部科学省は「論点は出尽くした」と
捉えているが、果たして個々の論点が詰められてきたかどうか。

 何よりも改正が本当に必要なのかどうかもはっきりしない。もし必要であればその
理由を明らかにし、時間を割き、教育関係者、研究者の意見も踏まえて国民の理解
を得た上で審理していくべきではないか。

 まず成立ありきの審議は拙速であり、国会の責任を放棄したと言われても仕方が
ない。タイムスケジュールにとらわれることなく、根本法にふさわしい論議を行うのが
国会の責務だろう。

 これまでも触れたが、東大基礎学力研究開発センターが実施した全国の公立小
中学校長への調査で、66%が教育基本法改正案に反対している。

 根幹に、教育改革のスピードに現場がついていけないという現実的問題があるの
も理由の一つになっている。

 なぜいま改正しなければならないかという根源的な疑問に加えて、教育現場はも
ちろん国民の間でも法改正に向けた基本的認識があいまいであるのをどう受け止
めればいいのか。

 政府案は教育の目的に「人格の完成」と「必要な資質を備えた国民の育成」を掲
げ、改正には「時代が変化し、教育課題が変わったのだから理念も変える必要があ
る」としている。

 だが基本理念については、軸足を国家、社会に置くのか、これまで通り人格の完
成に置くのか、与党内部でもすれ違いがあることを忘れてはなるまい。

 教育現場はいま、いじめやいじめに端を発した子どもたちの自殺、不登校の問題、
学力の低下、校内暴力など複雑な問題で溢れている。ここにきて高校の必修科目
未履修問題も出てきた。

 こういった問題は、法改正すれば解決できるというものではないはずだ。取り組む
べきは法改正ではなく、別のところにあると思うがどうか。

 三十日の委員会でも論議されたが、現行法の問題点、改正案について突っ込ん
だ質疑があったとは言い難い。

 教育基本法は日本の針路に深くかかわる。国の将来を担う子どもたちのためにも
「結党以来の悲願」(自民党)と狭く考えず、“非改正”も視野に入れながら議論すべ
きだろう。