『読売新聞』社説 2006年10月26日付

[教育基本法改正]「政争の具にしてはならない」


 現行の教育基本法には問題が多いという認識は、与党も民主党も共通のはず
だ。

 そうであれば、建設的な論戦を通じて法改正の実現を図るのが筋だろう。に
もかかわらず、民主党が審議引き延ばしに出ようとしているのはどうしたこと
か。

 教育基本法改正案の審議がようやく再開した。先の国会に政府案と民主党の
対案が提出され、約50時間の審議が既に行われている。

 政府案と民主党案は共通点が多い。

 教育を通じ、伝統の継承や愛国心、公共の精神をはぐくむ大切さを掲げた。
家庭教育の条文も新設した。いずれも、戦後まもなく制定された現行法に欠落
している部分である。

 現行法で「9年」と定める義務教育の年限を削除している点も共通する。子
どもたちの学力低下を憂慮し、義務教育の延長など、「6・3制」の弾力的な
運用をしやすくするためだ。

 教育再生は急務だ。来年の通常国会には、教員の質の向上を図る教員免許更
新制導入のための法改正作業が控えている。基本法が改正されれば、教育行政
の政策目標を定める「教育振興基本計画」の策定作業も始まる。

 教育再生へ具体的な措置を講じる上でその理念、指針となるのは、やはり教
育基本法だ。その改正を急ぐ必要がある。民主党も教育の現状に対する問題意
識を共有するなら、審議の促進に協力し、自らの主張を法改正に反映させる努
力をすべきではないか。

 だが、民主党は審議再開に難色を示し、実質審議入りを来週に先延ばしさせ
た。与党との修正協議も拒んだままだ。

 愛国心の表記は、「我が国と郷土を愛する態度」とする政府案より、「日本
を愛する心」と明確に書いた民主党案を評価する声が、自民党にも少なくない。
民主党が自身の案を少しでも生かそうと思えば、修正の余地も十分出てくるの
に、自ら可能性を封じている。

 それどころか、改正反対を唱え、本来相いれないはずの共産党や社民党と、
今国会での採決阻止を確認している。

 これでは、審議引き延ばしを目的に、形だけ対案を出したことになる。かつ
ての社会党と何も変わらない。

 下手に修正協議に応じれば、党内の足並みの乱れをさらけ出すことになる。
与党との対決色を強めた方が来夏の参院選にも有利だ――。そんな計算が働い
ているのだろう。

 教育は国家百年の計だ。政争の具にするようでは、選挙に有利どころか、民
主党は国民の信頼を失いかねない。