『読売新聞』大阪版 2006年10月26日付

大学発ベンチャー 「数」より「質」
経営力向上へ支援強化


 大学発のベンチャー企業が、「数」から「質」への転換期にさしかかってい
る。会社設立が相次ぐ一方で、見通しが甘く経営難に陥るケースも目立つ。大
阪府などは、経営を軌道に乗せる支援策を強化している。
(高橋健太郎)

大阪府など 市場調査に補助金

 今年7月、北九州市の音声認識システム開発会社の破産手続きが終了した。
近畿大などとの研究成果を事業化するため、2000年に設立された大学発ベ
ンチャーだ。信用調査会社の帝国データバンクなどによると、雑音除去など技
術面の評価は高かったが、開発費が資金繰りを圧迫した。かつて技術顧問を務
めた近畿大教授は「事業計画が甘かった」と振り返る。

 経済産業省は01年、大学発ベンチャーを04年度末までに1000社設立
する計画を発表した。大学に眠る「知恵」を社会に還元する狙いで、同省の調
査では設立数は05年度末で1503社に達した。このうち倒産などに追い込
まれたのは32社にとどまるが、「休眠状態の会社はごろごろある。真の成功
率は50分の1以下では」(関西の公立大教員)との指摘もある。経産省は
「研究者は事業計画より技術のシーズ(種)開発を優先しがち」と分析する。

 そこで、大阪府は事業戦略の策定や市場調査に、1件あたり最大500万円
の補助金を出す制度を05年度に導入した。公的支援は研究開発への助成が主
流で、市場動向を無視して研究開発にのめり込む大学発ベンチャーが珍しくな
い。採算性などを見極めたうえで創業してもらうのが目的で、初年度は10件
を採用した。

 その一つ、大阪府立大大学院の谷川寅彦助教授の案は、農業用給水システム
の開発・販売だ。土が乾燥すると、樹脂製容器の水が布製チューブから地中に
しみ出す装置を手がける。補助金500万円を使い、競合特許がないことや、
市場規模が北陸・近畿で数億円に上ることを確認した上で、今年5月、資本金
300万円で緑水学舎(堺市)を設立した。谷川助教授は「自前で費用を捻出
(ねんしゅつ)するには、新たな出資を募ることが必要。補助金がなければ、
調査をあきらめていたかもしれない」と語る。

 神奈川県も同様の事業を05年度に始めた。監査法人や投資会社による市場
調査などに、1件あたり500万円以内を支払っている。

 ただ、いくら事業計画が優れていても、経営手腕が未熟だと成功は難しい。
大阪市が今年2月に設置した「おおさかナレッジ・フロンティア推進機構」は
11月から、ベンチャーの事業構想を練ったりアドバイスをしたりするプロ
デューサーの育成に乗り出す。

 独立系投資会社のフューチャーベンチャーキャピタルは「ビジネススクール
出身者を受け入れる米国のように、日本の大学発ベンチャーも経営のプロを確
保すべき」とする。大学の研究成果という「宝の山」を増やすだけでなく、原
石を磨き宝石に仕上げる作業の後押しが求められている。