緊急要請「国立大学法人の授業料標準額について」を提出

 10月18日(水)開催の第4回理事会において、文部科学大臣あて「国立
大学法人の授業料標準額について(緊急要請)」が取りまとめられ、同日文部
科学省を訪れ、結城事務次官へ手渡した。

 内容は、本協会としては、これ以上の授業料標準額の増額は容認できないと
し、その理由を5項目にまとめ、財務省との折衝の場においては、断固として
受け入れない強い姿勢での対応を要請した。


国大協企画第126号
平成18年10月18日

文部科学大臣
伊吹文明様

社団法人国立大学協会
会長 相澤益男


国立大学法人の授業料標準額について(緊急要請)


 国立大学法人の運営等に関しては、日頃から格別なるご理解とご支援をいた
だいており、厚く御礼を申し上げます。

 さて、貴省の担当部局からの連絡によりますと、財務省は来年度予算編成へ
向けての事務折衝の過程において、標記の改定に関し今後貴省との間で議論を
始めたいとの意向を示しているとのことであります。

 本協会としては、これ以上の授業料標準額の増額は容認できません。今後機
会あるごとに意を尽くして容認できない旨をアピールし行動したいと考えてお
ります。その理由の要点は別添のとおりです。

 貴省と財務省との折衝の場においては、断固として財務省の意向を受け入れ
ない強い姿勢で対応をお願いするとともに、貴職におかれては、標準額の適正
な水準維持にご尽力くださるよう、要請をいたします。


(別添)

      国立大学法人の授業料標準額改定を容認できない理由

1.値上げ改定をすべき理由が明確でなく、各国立大学法人は説明責任を果た
せない。

 国立大学の授業料は、その時々の社会経済情勢や私立大学の授業料との均衡
を理由に隔年で引き上げられてきた。しかし、私立大学との差は縮まり、現在
では1.6倍を下回る状況にある。そもそも私立大学との均衡は、私立大学授
業料の抑制によって図られるべきもので、均衡を理由に安易に授業料を引き上
げるべきではない。

 また、各種経済指標の推移を見ても、家計消費支出をはじめとした指標は、
近年下落している。また、各種の教育費に関するアンケート調査等によっても、
家庭の教育費負担の重圧が指摘されている。さらに、国内の公共料金等各種の
料金もほぼ横ばいとなっている。

 このような時、各国立大学法人の判断基準ともなる授業料標準額を何故改定
する必要があるのか、理由が明確でなく、各国立大学法人は説明責任を果たせ
ない。

2.経済的な理由に左右されない教育の機会均等の確保が図れなくなる。

 国立大学が果たす役割の一つが、教育の機会均等の確保である。一方、高校
生の進路に関する各種調査によっても、進学のための費用負担が進路決定に大
きく影響していることが明らかになっている。

 また、進学の機会確保の方策として奨学事業や授業料免除制度があるが、日
本学生支援機構の奨学金は全体の約4分の1の学生にしか行き渡っておらず、
免除率も予算上5.8%しか見込まれていない。

 既に低廉とは言え国立大学の授業料をこれ以上引き上げることは、経済的な
理由に左右されず高等教育を受ける機会を失わせ、ひいては社会的格差を固定
化する恐れがある。特に、国民の所得は地域によって格差があり、授業料値上
げの影響は所得の低い地方においてより深刻となる。

3.優秀なる人材の確保・育成に支障が出て、我が国の将来が危うくなる。

 安倍新政権は、「再チャレンジ」「教育の再生」、「都市と地方との間における
不均衡の是正」などを表明されている。国立大学は、我が国の高等教育の中心と
して、高度な学術研究と優れた人材養成、高等教育の機会均等の確保に貢献し
てきた。今後の国際化社会や知の時代においては、一層この役割は期待され、
また果たしていかなければならない。しかし、授業料が引き上げられ、その負
担に耐えられる家庭からのみ国立大学へ進学することになれば、優秀なる人材
の確保・育成に支障が出て、我が国の将来を危惧せざるを得ない。

4.標準額の改定は、法人化された国立大学の経営判断を事実上無視するもの
である。

 国立大学の授業料は、国立学校特別会計当時は全大学一律に隔年で改定され
てきた。しかし、法人化後の国立大学法人の授業料の額は、定められた標準額
の10%上限の範囲で、各大学法人が置かれた経営環境の下で、各大学法人の
判断により具体的な額を決定することとされている。

 各国立大学法人は、懸命な経営努力を重ねており、過去2回の決算結果にお
いて経常利益が計上されていることから、当面は授業料引き上げによる増収は
社会の理解が得られないとの判断をしている。しかし、標準額改定は運営費交
付金の減額につながるため、各大学はこれに対応して授業料を改定せざるを得
ない状況に追い込まれることとなる。一昨年、各大学は、12 月末の政府案決定
を受けて経営判断などをする暇もなく、翌年度からの授業料の改定手続きを迫
られた。このことは、学内や社会・受験生等に対しても、短時間内での対応を
要求され、自主・自律的な経営を謳う法人化の趣旨に全く反するものとなった。
今回再びこのような対応を求められるとすれば、我々は法人化の意味を問わざ
るを得ない。

5.法人化過程で築かれた政府と国立大学との信頼関係を希薄にする原因とも
なる。

 国立大学は、教育研究を行う機関であり、法人化は単なる行財政改革の観点
から行われたものではなく、教育研究の充実と個性化、高度化、活性化を図る
ための大学改革の一環と位置づけられている。「国立大学法人法」が制定され、
衆・参両委員会の附帯決議があり、運営費交付金の算定ルールにおいてその効
率化係数の定め方等に一定の配慮がされた。

 これらの算定ルール等の設定においては、新しく法人の長となる予定者の大
部分がその職の返上まで賭して対応した経緯があった。しかし、法人化早々の
翌年度の予算編成過程において、これまでの隔年改定延長線上にあるかのごと
く授業料標準額をいきなり増額改定されたことは、青天の霹靂ともいえる政府
の対応であった。

 来年度予算において、運営費交付金1%削減に加え再び授業料標準額の改定が、
一昨年の反省もなく当然のように実行されるようなら、法人化の過程において
築かれた政府と国立大学間の信頼関係に重大な転機が訪れる恐れがある。