『沖縄タイムス』社説 2006年10月23日付

[教育改革調査]現場踏まえた実質論議を


 官邸主導の教育再生会議が発足し教育改革論議がスタートした。教育基本法
改正を視野に入れた教育の再生は安倍晋三首相が政権の最重要課題と位置付け
る問題である。

 しかし一方で、目まぐるしく変わる改革論議に、小中学校の教育現場から戸
惑いの声も出始めている。

 再生会議では教員免許更新制や学校評価性を優先的に議論し、親や生徒が学
校を選択できる教育バウチャー制度なども検討する。来年一月に中間報告をま
とめる予定で、政府は通常国会で関連法案の成立を目指す構えだ。

 スピードを重視した論議が中身のある教育改革に結びつくのかどうか、疑問
を抱く人も少なくないだろう。

 東大の基礎学力研究開発センターが全国の公立小中学校の校長を対象に、教
育改革について聞いたところ、回答者の85%が「速すぎて現場がついていけ
ない」と感じていることが分かった。

 66%は教育基本法改正案に反対しており、「教育問題を政治化しすぎ」と
の回答も67%に達している。

 また、79%は「教育改革は、学校が直面する問題に対応していない」と回
答しているのが象徴的である。

 一連の教育改革論を疑問視する見方が大勢を占めている。教育現場で悩む校
長の問題意識が如実に反映された結果と受け止めることもできよう。

 教育現場の実態を軽視しがちな政治主導の教育改革論の危うさが、あらため
て浮き彫りになっている。

 中教審が教員の質確保のために導入を答申した教員免許更新制に対し賛成す
る校長は41%にとどまった。

 学校選択制については、学校の活性化に役立つとする肯定的な回答がある一
方で、「一部で教員の士気が低下する」(73%)「学校の無意味なレッテル
付けが生じる」(88%)「学校間格差が拡大」(89%)など、同制度のマ
イナス面を懸念する声が多い。

 大多数の校長が将来の教育格差の問題を心配しており、88%が「子ども間
の学力格差が広がる」と回答し、「地域間」(84%)「公立・私立間」(7
7%)と、いずれも格差の拡大を予想している。

 この調査結果が示唆しているのは、教育改革論が学校現場と懸け離れたもの
になっているということだ。現場の声を置き去りにしたままで、何のための教
育改革なのか。一連の校長らの声を官邸の教育改革論に反映させていくべきだ
ろう。

 政治的な思惑だけが先行するような官邸主導の強引な教育改革はやめるべき
だ。論議の前に、まずは教育現場の声に虚心坦懐に向き合う必要がある。