『西日本新聞社』春秋 2006年10月20日付

おととい「教育再生会議」が初会合を開いた。安倍首相の肝いりで設置された
直属の諮問機関である。「質の高い教育」を提供する改革案を議論し、1年間
で結論を出す。

▼小泉首相が手がけた「改革」路線を安倍首相は教育問題で引き継ぐ。公教育
改革にかけた並々ならぬ意気込みは、著作「美しい国へ」の中で「教育の再生」
の章を立てていることからもうかがえる。

▼教育再生は日本再生につながる。そう思わせる事例に最近は事欠かない。技
術立国を担保する理数の学力低下は以前から指摘されてきた。自国文化を誇り
に思う気持ちが薄れつつあるのは、国語力の衰弱と無縁ではない。

▼義務教育の現場で進行中の「崩壊」が危機感を募らせる。生徒や児童同士、
教師と教え子、現場と教育委員会など、種々の回路が根詰まりを起こしつつあ
る。回路不全が絡み合った1例を、各地で相次ぐ「いじめ自殺」に見る。

▼この問題を抜きに教育再生は語れない、と思っていた。初会合では触れられ
なかったらしい。意外な気がした。首相に「英知を結集した」と言わせた各界
代表たちが、目の前にある問題を知らないはずはない。

▼いじめによる自殺は「7年連続でゼロ」と文部科学省は認識していることが
分かっている。回路不全がここにもありそう。いじめの問題に触れれば教育行
政の大もとに話は及ぶ。そうならないために事務方が触れさせなかった、とみ
るのは読みすぎか。