『山陽新聞』社説 2006年10月20日付

教育再生会議 オープンな議論を求める


 安倍晋三首相が最重要課題に位置付ける教育の再生策を有識者らが話し合う
「教育再生会議」の初会合が開かれた。国家百年の計である教育が、この会議
を通じて変わっていく可能性がある。関心を高めなければならない。

 戦後の詰め込み教育が批判を受け、一九七〇年代以降は校内暴力やいじめな
どの問題が顕在化した。ゆとり路線が取り入れられたものの、いじめなどの問
題は依然として深刻で、近年は学力低下論争も出てきた。これまでの改革の検
証と新たな視点の導入は必要だろう。

 首相は戦後体制からの脱却を掲げる。まず国の基礎である教育の見直しから
取り組もうということだろうが、保守色の強い改革になるのではとの懸念の声
は根強い。

 文字通りの教育再生と、首相の政治路線反映という両面から会議の内容を注
視しなければならない。しかし、初会合では首相や座長の野依良治理化学研究
所理事長のあいさつが公開されただけで、会合自体は非公開だった。今後も同
様の方針で、議事要旨や議事録が後で公開される。

 会合後の説明によれば当面は教員免許更新制と学校評価制を優先して議論し、
来年一月に中間報告するという。これらは文部科学省や文科相の諮問機関・中
央教育審議会が既にレールを敷きつつあるテーマだ。会議で話し合うことは、
内容的に異なるのか。また、文科省や中教審との調整はどうなるのか。

 開催前からのこうした疑問が残ったままなのは、初会合が非公開であったこ
とと無縁ではあるまい。会議では親や生徒が学校を選択でき、学校間の競争を
促すとされる「教育バウチャー制度」も検討の対象になる見通しだが、導入に
は賛否の意見がある。非公開で議論されることは納得がいかない。

 首相は、あいさつの中で規範意識や情操を身につけさせる必要を訴え、奉仕
活動や伝統文化の学習の重要性も強調した。教員免許の更新制などで会議の実
績をまずアピールし、その後安倍色の強い改革を目指す意図がうかがえる。首
相の教育改革の本筋といえる部分であり、議論の過程を詳細に追う必要がある。

 野依座長は議論公開を求める声に対し「事実は真実の敵という言葉がある」
と述べ、最終的にまとめてメッセージを伝える考えを示した。

 過剰反応を招かないための配慮だろうが、やはり議論はオープンが望ましい。
現場の先生や保護者を巻き込む形で話し合う方が納得を得やすく結果としても
改革がスムーズに進むのではないか。