『愛媛新聞』社説 2006年10月20日付

教育再生会議始動 子ども本位の改革に知恵を絞れ


 安倍晋三首相肝いりの教育再生会議がスタートした。

 初会合で安倍首相は「国づくりの基礎となる教育再生の推進に全力で取り組
む」と決意を語った。いま教育現場には、いじめによる自殺、学力の低下など
さまざまな課題がある。これらを一つ一つ解決していかねばならない。

 官邸主導の教育再生会議をつくったからには、この国の将来を担う子どもた
ち本位の改革案を練り上げる責任がある。

 再生会議のメンバーはノーベル化学賞受賞者の野依良治理化学研究所理事長
を座長に経済界、芸術・スポーツ界、教育現場などから十七人が起用された。
初顔合わせでは委員がそれぞれの持論を披露した。多彩な顔ぶれだけに意見の
隔たりが浮き彫りになった。集約に手間取る場面もありそうだが、議論の出発
点として多様な意見が出ること自体は好ましいといえる。

 安倍首相は九月の所信表明で「すべての子どもに高い学力と規範意識を身に
付ける機会を保障するため、公教育を再生する」と言明した。実効性ある施策
を打ち出せるかどうかは、再生会議の論議の中身にかかっていよう。個々のメ
ンバーの責任もきわめて重い。

 再生会議は当面、教員免許の更新制や学校の外部評価制を優先して議論する
という。

 しかし、教員免許更新制は二年前に当時の中山成彬文科相が中央教育審議会
に諮問し、今年七月に答申され、すでに方向性が出ている。それには「不適格
教員の排除が直接目的でない」と明記されたが、再生会議で排除の色が強くな
る恐れを指摘する委員もいる。蒸し返すつもりなら、慎重な議論を求めたい。

 また学校の外部評価制導入は学校間の競争を促すとされる。こうした競争原
理優先は学校間格差を拡大し、教育現場の荒廃が進みかねない。これは親や子
どもが学校を選択できる「教育バウチャー制度」にもいえることだ。選択肢の
少ない地方や過疎地では成り立たないとの反発もある。伊吹文明文科相が「こ
の分野は競争だけではうまくいかない」とくぎを刺したことを忘れてはならな
い。

 子どもの学力低下も教育現場の悩みの一つだ。国際学力調査の評価では読解
力の順位低下など心配な面も確かにある。「勉強ができる子」と「できない子」
の二極化が進んでいるのも気がかりだ。楽しく分かりやすい授業で子どもたち
に学ぶ意欲を持たせ、学力の底上げを図る具体策を打ち出すべきだ。

 それにしても再生会議の運営面で解せないことがある。非公開とは、どうし
たことなのか。教育改革の行方は国民の大きな関心事であり、審議内容はつぶ
さに知りたいはずだ。やはりオープンにしなければ、国民の理解は得られまい。

 これから再生会議は全体会議と並行し、課題ごとの複数の分科会で論議を進
める。来年一月に中間報告するというが、実質三カ月とは短かすぎる。教育は
百年の大計だ。じっくり議論を深めてもらいたい。