『日本海新聞』2006年10月13日付

話題を追う
鳥大病院の看護師大量募集
体力強める大学病院


 鳥取大学医学部付属病院(米子市西町、石部裕一院長)が来春の看護師採用
に向けて大々的な募集活動を展開している。四月の診療報酬改定を背景に、高
度医療を支えるスタッフの充実を図る考えだ。こうした動きは全国の大学病院
に広がっており、看護師の採用活動は完全な売り手市場となっている。一方、
他の病院は「看護師不足に拍車が掛かる」と都市部や大病院への人材集中を懸
念。病院間でも「格差」が拡大しそうだ。

 鳥大病院は例年の倍以上となる百人を募集。二〇〇八年度には看護師数を現
在の約四百六十人から約五百八十人に増やす計画だ。採用活動強化にプロジェ
クトチームを設立し、県内出身者が多い関西や岡山、広島県などの看護学校を
訪問。初めて県外で説明会を開くなど売り込みをかけた。

 十五、十六の両日に行う採用試験への応募状況は順調で、石部院長は「大学
病院は敷居が高いというイメージを変えることができた。できれば一年で計画
を達成したい」と手応えを感じている。

■手厚い処遇

 東京大学医学部付属病院の三百人をはじめ、全国の大学病院で看護師の争奪
戦が激化しているのは、診療報酬改定と国立大学の法人化の影響だ。

 病院に対して支払われる入院基本料は、看護師一人が担当する患者数で決ま
る。従来は一人当たり患者十人が最高水準だったが、より手厚い患者七人の区
分が新設され、看護師を増やしても人件費が賄えるめどが付いた。これに加え
て〇四年の法人化で裁量権が拡大し、看護師の増員が可能になった。

 鳥大病院でもこれまでは非常勤の看護職員約百人を雇用する形で診療報酬を
確保していたが、人材確保のため処遇を改善。非常勤職員全員を正規職員化し
た。今後は離職対策にも力を入れ、来春には二十四時間体制の保育施設を設置
する予定だ。女性が多い職場だけに子育ての不安を解消。教育プログラムの充
実も図る考えだ。

■民間は危機感

 一方、県西部の病院では人員不足が進むとの見方が強まっている。山陰労災
病院(米子市皆生新田一丁目)の川崎寛中院長は「鳥大病院の採用計画は、院
長同士の会合でもいつも話題になる。一段と不足するだろう」と周辺病院への
影響を危ぶむ。済生会境港総合病院(境港市米川町)は「採用試験の受験者が
減った。現在でも欠員補充は難しい状況」と頭を抱える。併設する看護専門学
校の新卒予定者が鳥大病院に流れているという。

 民間病院はさらに厳しく、米子市内のある病院は「応募者は例年の四分の一。
中小ほど影響が大きく、経営が成り立たなくなる」と漏らす。看護師希望者の
公務員志向も影響を及ぼしている。

 これに対し、鳥大病院の石部院長は「一時的に迷惑を掛けるかもしれないが、
日本の医療政策は変革期に差し掛かっている」と指摘する。

 国は医療費削減に乗り出し、病院の機能分化、淘汰(とうた)を進める考え
だ。診療報酬改定により、中小病院ではこれまでの収入が保てなくなる例も予
想される。米子市内のある病院院長は「医師だけでなく看護師も都会に流れて
いる。県内では鳥大病院の一人勝ち。病院にも格差社会の流れが押し寄せてい
る」とつぶやいた。