『河北新報』社説 2006年10月15日付

教育再生会議/学校、教師支援の議論を


 安倍晋三政権が重要課題に掲げた「教育再生」策を検討する「教育再生会議」
の設置が正式に決まった。民間の有識者ら17人らで構成、座長には野依良治
理化学研究所理事長が就任する。18日に初会合を開く。

 教育は百年の計であり、幅広い視野で教育の根幹にかかわる議論をじっくり
深めてほしい。特に、義務教育への、市場、競争原理の導入は、新たな格差や
優劣を生むことにつながりかねず、慎重な対応を望みたい。議論の透明性を確
保するとともに、国民に対し丁寧な説明が必要であることは言うまでもない。

 メンバーは、多彩な顔ぶれがそろった。「ヤンキー先生」で知られる横浜市
教育委員の義家弘介氏、ソウル五輪銅メダリストの小谷実可子さんら著名人。
財界からは、張富士夫トヨタ自動車会長、今春開校した愛知県の中高一貫男子
校の副理事長を務め、「エリート養成」の必要性を訴える葛西敬之JR東海会
長らが入った。

 「百マス計算」の陰山英男立命館小学校副校長、小宮山宏東大学長らは教育
界の代表、劇団四季の浅利慶太代表らは教育基本法改正論議の発端となった
「教育国民会議」の委員だ。 中央教育審議会と異なり、日教組など労働組合
の代表メンバーになっていない。

 テーマの大きな柱は、「基礎学力の充実」と「教師の質の向上」だ。安倍首
相が教育政策として掲げている(1)学校、教員への外部評価制度(2)教員
の免許更新制度(3)全国学力テストの実施(4)ゆとり教育を見直す学習指
導要領の見直し(5)教育利用券(バウチャー)で保護者が学校を選択できる
制度(6)大学の9月入学―などが論議されるという。

 賛否両論がある中、学校、教員の評価制や教員の免許更新制、全国学力テス
トの実施などは、文科省が導入へのレールを敷いている。バウチャー制度は、
10年来論議されているが、地域の核の小、中学校を競争にさらし、存立さえ
奪ってしまう懸念から、決着がついていない。

 大学の9月入学は、公共心の養成を目的とし、高校修了後の半年間の「奉仕
活動の義務化」と一体として打ち出され、ボランティアの本来の趣旨とは異な
るとする意見も多い。さまざまな角度からの議論が必要だ。

 学力の低下や、いじめ、不登校など教育を取り巻く状況を見る限り、このま
までよいと思う人は少ないだろう。個々人の多様な価値観は前提だが、子ども
たちに最低限守るべき規範を教え、「生きる力」につながる真の学力を身につ
けさせるのは、当然であろう。

 しかし、教育は経済とは違って、号令をかけ、競争原理を導入するだけで質
が上がるものではなく、かえって逆効果にもなりかねない。学校や教師の優劣
をつけるより、現場を、教師を、どうすれば魅力あるものにできるか、サポー
トする姿勢が大切だ。それが、ひいては子どもたちの学ぶ意欲にもつながるの
ではないか。再生会議のメンバーは、豊富な経験と見識があり、奥深い議論を
期待したい。