『読売新聞』社説 2006年10月12日付

 [教育再生会議]「『官製改革』の殻破る提言を」


 安倍政権の目玉となる「教育再生会議」が船出した。

 「すべての子どもに高い学力と規範意識を身につける機会を保障するため、
公教育を再生する」。首相が繰り返し述べてきた「教育再生」の具体策を、1
7人の有識者委員らが討議する。まとまったものから順次、提言していくとい
う。

 首相直属の教育諮問機関がつくられるのは中曽根内閣の「臨時教育審議会」
(1984〜87年)、小渕・森内閣の「教育改革国民会議」(2000年)
以来のことだ。看板に掲げた「教育再生」に、具体的成果が上がるよう、首相
自身が指導力を発揮すべきだ。

 再生会議の提言については、中央教育審議会や文部科学省が進める教育改革
との整合性を心配する声がある。

 教員免許の更新制は、すでに文科省が中教審答申を受けて、実施に向けた制
度設計の最中だ。第三者機関による学校評価も、答申に沿い、9月から全国1
24の公立小中学校で試行を始めている。

 大枠を決めて方向性を打ち出すのが再生会議、その具体策を検討するのが中
教審・文科省といった「棲(す)み分け」が内々に合意されているという。混
乱が生じないよう、一定の調整は必要だ。

 だが、多くの国民が望むのは、これまでの「官製改革」の殻を打ち破るよう
な提言だろう。従来の改革路線の枠内にとどまっていては、教育再生の実現は
難しいのではないか。再生会議に「期待はずれ」の批判も出てくるだろう。

 今のところ、「教育バウチャー(利用券)制」や「大学の9月入学制」の導
入、「奉仕活動の義務化」などが検討議題の候補に挙げられている。

 バウチャーには、競争原理導入による公教育の活性化が期待できる反面、
「学校間格差が広がり、つぶれる学校が出る」といった反発がある。

 「9月入学」にも産業界や教育界には慎重論が根強い。臨教審や国民会議で
も言及されたが浸透していない。奉仕の「義務化」も国民会議で見送られた。

 子どもの「学力低下」傾向への対策は必須の議題となろう。「ゆとり教育」
で大幅に削られた授業時数をどう復活させるのか。公立校の「学校週5日制」
の現状をどう考えるのか。

 委員たちには、今の教育の実態と、現場のニーズを踏まえた実のある議論を
期待したい。そこでまとまった提言は、政府の責任において、できるだけ速や
かに実行に移すべきだ。

 再生会議の改革論議をめぐって、多くの国民が教育を語るようになる――そ
んな効果も期待したい。