『朝日新聞』2006年10月11日付

教育再生会議、安倍色薄い人選 側近からも不満


 10日に設置が閣議決定された「教育再生会議」の有識者メンバーにはバラ
エティーに富む著名人が並び、ひと目で分かる「安倍カラー」は浮かんでこな
い。歴史認識の国会答弁で見せた安倍首相の「安全運転」ぶりが人選にも見ら
れるようだ。一方、会議で議論する政策課題の方向性も顔ぶれと同様、はっき
りした像を結んでいない。

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 「あまり偏ってはいけないね」「この人かな」

 2日の首相執務室。安倍首相と教育担当の山谷えり子首相補佐官は、数十人
の名前が載ったリストを見ながら、丸印をつけていた。元五輪代表の小谷実可
子氏や「百ます計算」の陰山英男氏など話題作りのためと見られる面もあるが、
「幅広く議論を深めてほしい」(首相)との観点から選んだ。首相の「タカ派」
イメージと異なり、バランスが取れていると見られている。

 だが、首相のブレーンからは不満もくすぶる。首相に近いある文化人は、海
老名香葉子氏が11月に共産党の赤旗まつりで市田忠義書記局長と対談する予
定であることについて「怒りというよりあきれている」。元文科事務次官の小
野元之氏が委員になり、文科省私学部長が担当室副室長に就任したことについ
ても、「官邸主導どころか、文科省寄り」と批判する。

 人選に安倍色がにじんでいないわけではない。小渕〜森内閣時代の教育改革
国民会議や中央教育審議会と異なり、労組幹部は排除されている。葛西敬之氏
は張富士夫氏とともに、首相を囲む経済人の集い「四季の会」のメンバー。
「安倍首相好みの仕切り屋」(閣僚経験者)との声もある。

 政府・与党内には「参院選に勝てば、安倍政権は長期政権になる。そこで
『本当の改革を』となる」(文科省幹部)との見方が強い。政権基盤が固まる
までは、こだわりのある教育改革でもなかなか安倍カラーを前面に打ち出せな
いのではないかと見られている。

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 教育再生会議では、首相が所信表明演説で強調した教員免許の更新制と学校
の外部評価の義務化がまず焦点となる。著書で提唱した教育バウチャー(利用
券)も検討されそうだ。しかし、すでに本格導入に向けて準備が進むものもあ
り、同会議がどこまで独自色を出せるのかは不透明だ。

 教員免許の更新制では中央教育審議会が7月、免許に10年間の期限を設け、
講習を修了しないと失効する仕組みの導入を答申。文科省は来年の通常国会に
法案を提出すべく準備を進めている。「指導力不足教員」を都道府県教委など
が認定し、分限免職もできる制度では05年度までの6年間で約400人が教
壇を去った。

 また、保護者や地域住民らによる評価を導入した公立学校は04年度で78.
4%に上る。文科省は学校と直接関係のない「第三者」の評価が可能かどうか、
9月から研究を本格化させたばかりだ。

 一方、教育バウチャーについて、日本では「各家庭が自治体などからバウ
チャーを受け取り学校を選ぶ」制度という前提で議論が進んでいる。いい学校
には多くの子どもが集まり、学校間競争で教育の質が上がることが期待されて
いる。ただ、過疎地ではそもそも通学圏に学校が一つしかない地方もあり、政
府・与党内には慎重論が根強い。