『読売新聞』2006年10月5日付

株式会社の学校運営 メリットどこまで?
助成金出ず少ない利益 信用力を本業に生かす


 構造改革特区を活用し、大学や大学院を設置する株式会社が増えている。資
格取得に役立つカリキュラムなど、学生の要望に沿った機動的な学校運営が売
り物だ。
(高橋健太郎)

 青い布の上でポーズを取る女性を、照明が照らし出す。カメラマンが「もう
少し前に」と声をかけ、撮影した画像を素早くパソコンに取り込んだ。デジタ
ルハリウッド大学大学院・大阪サテライトキャンパス(大阪市)は、映像制作
などの専門家を養成する実践的な講義を誇る。

 大学院を経営するのは、クリエイター養成スクールを運営するデジタルハリ
ウッド(東京都)。2004年4月に「株式会社の設立した大学院」として産
声を上げ、大阪キャンパスは翌年4月に開学した。東京、大阪合わせて学生約
150人が在籍している。

 国や地方公共団体、学校法人だけが可能だった学校経営が、株式会社や非営
利組織(NPO)にも開放されたのは03年だ。地域の特性に応じて、規制緩
和の特例措置を設ける「構造改革特区」に基づく。文部科学省は「社会のニー
ズに合った学校づくりができる」と狙いを説明する。

 資格試験の受験指導を手がける東京リーガルマインド(東京都)の「LEC
東京リーガルマインド大学」は、資格取得熱の高まりなどを背景に、大阪、神
戸など全国14か所にキャンパスを構える。企業経営者の育成などを目指す
「LCA大学院大学」(大阪市)は、経営コンサルティングの日本エル・シー・
エー(京都市)子会社の運営だ。

 株式会社の目は小・中学校や高校にも向いている。04年4月に開校した朝
日塾中学校(岡山市)は、進学塾が母体の「朝日学園グループ」が経営する。
英語での美術や体育の授業など、個性的な教育が特徴だ。

 ただ学校法人と異なり、営利追求が前提の株式会社の場合、中学生で1人あ
たり20万円台といわれる国の助成金は出ない。「もうけはない」(デジタル
ハリウッド)という学校も多い。経営母体の専門学校や経営コンサルタントな
どにとっては、大学院などの信用力を本業に生かせればいいという面もあるよ
うだ。

 学校数は設立準備中も含め、大学・大学院が12校、小・中・高校は14校
にとどまる。学校教育には公共性が求められるだけに、「教育の質を確保でき
るかどうか心配」という批判も根強い。

 新制度で“敗者復活”を果たした例もある。朝日塾中の場合、当初は学校法
人「朝日学園」による設立を考えたが、多額の負債を抱えていたことを岡山県
が問題視した。そこで、株式会社「朝日学園」による設立に切り替えた経緯が
ある。

 スタートして間もない制度だけに、企業、学生双方のメリットは、まだはっ
きりしない。定着するかどうかは、卒業生の進路や研究成果などの実績に左右
されそうだ。