声明

法案を廃案に追い込むために、 法案審議を徹底的に監視・検証することを皆さんに訴える

                                      教育基本法「改正」情報センター 2006年10月4日

1 去る9月28日、与党は、野党の反対を押し切って、教育基本法改正特別委員会の設置を決定し、10月3日の
代表質問において、安倍晋三新首相は、今国会における法案の早期成立を遂に明言した。そして、伊吹文明
新文科大臣による、あと20時間から30時間の審議が行なわれれば良いとの発言、中川秀直自民党幹事長に
よる、与党による単独採決も辞さないとの発言にも示されているように、安倍新政権は、国会審議への不当な
干渉をおこなってもなお、そして、数に頼んでの国会運営をしてもなお、法案を成立させんとの強硬な姿勢を示
しているのである。

教育基本法「改正」の危機は、いよいよ、最高度の水準にまで達しようとしている。

2 教育基本法「改正」情報センターは、「徹底審議に基づいて改正法案を廃案とすること」をその発足直後から
主張してきた。本センターは、現在の危機のもとにあって、国会審議を徹底的に監視し、審議の内容を検証する
ことを、全国各地の人々、諸団体に訴える。

○ 本センターは、教育基本法「改正」法案の国会審議をリアルタイムで監視する。立憲主義、法治主義を否定す
るような発言を始め、問題のある発言はホームページ上で公開し、批判していく。

○ 全国各地の教育関係団体、研究組織、教職員団体などの皆さんには、私たちとともに、国会審議を監視する
ことを訴える。その集約の場所として「徹底監視!教育基本法改正法案国会審議」を本センターのホームページ
上に開設する。

3 先の国会での審議は、内容においてもその質においてもきわめて不十分、問題の多いものであった。

第一に、教育基本法を「改正」すべき理由は何ら明らかにされなかった。立法の大前提である立法理由、立法事
実が法案提出者から示されることはなかった。

第二に、政府法案の作成の実質的な担い手となっていた教育基本法改正に関する与党協議会、同検討会の議
事録が公開されなかった上、逐条審議方式が取られること無く、それぞれの委員の問題関心に基づいて質問が
なされたために、立法者意思の多くは不明のまま残されている。教育基本法は、その後の立法のあり方を方向付
けるものなので、新規立法の内容、あるいは、学校教育法の改正方向が明らにされなければ、立法者意思が説
明されたことにはならない。新たに加えられた文言や、修正の加えられた文言についての審議もなされなかった
条項、それも法案の中核に位置付く条項もいくつもある(例えば、第9条の教員、第12条の社会教育、第17条の
教育振興基本計画)。

第三に、本来であれば立憲主義の枠内で審議が行なわれなければならないにもかかわらず、与党、野党の多く
の委員から「教育勅語擁護」発言が公然と行われ、絶対主義的・封建的イデオロギーの象徴とも言える「国体」と
いった発言も何らとがめられることなく行われていた。

第四に、現行の教育制度の基本原理を覆す発言が公然と行われながら、その是非に関する議論も何らなされて
いなかった。例えば、義務教育終了後は、大学進学を目指す者のため学校と、就職する者のための学校に「複線
化」するという教育の機会均等を根底から覆す発言も政府からなされていたが、その発言は放置されたままとなっ
ている。

第五に、少なくない与党議員は、自らの教育体験、感想をのべることに終始し、法案の内容に即した質問をほとん
ど行っていなかった。

4 私たちは、以上の欠陥を克服し、次の諸点を踏まえた徹底した審議が行なわれるべきことを要求する。

第一に、法案の審議を、本会議における「改正」案の趣旨説明からやり直すこと。教育基本法の「改正」を「教育再
生」の出発点とすることを公約とした新内閣が発足した以上、新内閣として「改正」理由を一から明確に示すべきで
ある。

第二に、法案と日本国憲法の理念との関係を明らかにすること。教育基本法が「基本法」としての力を持ちうるのは、
それが、日本国憲法の原理と規定と直結し、それを具体化するからなのである以上、「改正」箇所のすべての、日本
国憲法との関係が逐一チェックされなければならない。例えば、前文に挿入された「公共の精神」は、日本国憲法の
いかなる規定から導かれるのだろうか。

第三に、立法者意思を徹底的に明らかにするために、@条項ごとに、それに加えられた修正などが、条項の意味を
どのように変化させ、学校教育法などの教育関係法令のどの規定にどのような影響を与えるのかについての明確
な説明を行なうこと、そして、B政府法案の事実上の作成に関わった与党の「教育基本法改正に関する協議会」同
「検討会」の議事録等を速やかに公開すること。立法者意思が明らかとならない法案審議によって法案が成立すれ
ば、それを手にした政府は、いかなることをも法律に読み込むことができる。これでは、法律による行政のコントロー
ルという法治主義の要請さえもが踏みにじられることになる。

第四に、以上の徹底した審議を行なった上で、法案を廃案とすること。それでもなお、政府が法案に固執したいので
あれば、国会を解散し、教育基本法「改正」そのものについて国民にその信を問うこと。

5 本センターは、「改正」法案を廃案に追い込むために、「基本法」改正に求められるあるべき審議を国会が行なうこ
とを要求するとともに、そのような審議を行なっているのか否かを徹底的に監視・検証する活動を展開していく。皆様
のこの活動への積極的な参加を心から呼びかけるものである。