『神戸新聞』2006年10月4日付 大学の授業に高校生 「高大連携」広がる 高校生に大学の授業を受講する機会を提供する「高大連携」。社会への貢献 とともに将来の学生確保を期待する大学側の熱意は大きいが、高校側のニーズ と合わない面もある。三田市内の高校はこのほど、大学の研究所でもある県立 人と自然の博物館のセミナーを授業の単位と認める協定を結んだ。時間割調整 が難しい、地域に大学がない―など連携に課題が指摘される中、連携の拡大に は大学、高校双方の工夫が必要だ。(北摂総局・藤嶋 亨) 専攻決め推薦入学/博物館の講座でも単位認定 今年五月、県立人と自然の博物館(三田市弥生が丘六)セミナー室。県立有 馬高校(同市天神二)で農業を学ぶ「人と自然科」の三年生三十二人が、同館 研究員の説明を熱心に聞いた。地域の川に生息するホタルの数を調査するのが テーマ。同館でも行われている専門的な環境調査の手法を身につけるのが目的 だ。 同校は今年五月、同館のセミナーを授業として受講できる協定を締結した。 同館が三田市内の高校と協定を結ぶのは、県立三田祥雲館高校(同市学園一) に次いで二校目。 有馬高校「人と自然科」と三田祥雲館高校は単位制を導入しており、授業の 一環で実施。同館は「単位として認められるから生徒の意欲もわく。他校とも 単位認定のシステムについて協議していきたい」と連携拡大に意欲を見せる。 ■ ■ 高大連携は、一九九九年ごろから高校と大学が個別に提携する動きがあり、 二〇〇三年度からは県教委が県内の大学と協定を結ぶようになった。各高校で 特色あるカリキュラム編成を組むための支援や、高い能力があり、特定の分野 に強い関心を持つ生徒の育成が目的だ。 〇三年度は七大学が六十一科目を用意し、七校二十七人が十五科目を受講し た。四年目に入った本年度は、十三大学が計二百六十二科目を用意するなど、 選択の幅が広がってきた。しかしその一方、実際に受講しているのは、八月末 時点で十五校百七十三人が二十七科目、と決して盛んとはいえない。 県教委は「単位制の学校以外は、時間割選択の自由度が低い。このため、放 課後など学校外に出ることができる時間が限定される。また、近くに大学がな い地域では、移動時間の問題が出てくる」と問題点を認める。 大阪教育大学の大脇康弘教授(教育経営学)は「高大連携は立ち上げ期から 学習期に入った。拡大には工夫が必要」と指摘し、「博物館には大学同様に知 識という資源がある。人と自然の博物館と高校の連携はユニークな取り組み」 と評価する。 ■ ■ 少子化の影響で、「大学全入時代」が目前に迫る中、優秀な学生を確保した い私立大学と、上位校への入学者数を増やしたい私立高校の間で連携が進む。 関西学院大学(西宮市)は今年一月、三田学園中学・高校(同市南が丘二) など三校と推薦入学制度の協定を結んだ。 同学園は来春、高校一年に四十人の「関学クラス」を立ち上げる。関学大の 教員による授業や話し合いを通じ、大学入学時までに大学での専攻や研究テー マを決める。英語学習や読書にも力を入れ、「大学でも通用する学力を養う」 (裏井勝也高校教頭)という。生徒は入学試験を受けずに関学大に進学できる。 生徒の興味や関心のある分野の授業を受けることで、学習意欲を高めようと 始まった「高大連携」。大学で何を学び、将来どんな職業に就きたいのか。高 校生が進路について考える環境を整える意味でも、さまざまな連携のかたちが 求められる。 |