『毎日新聞』鳥取版 2006年9月30日付

愛国心:どうなる日本−私の視点/14 「格差社会に向けた共同体幻想」 /鳥取

 ◆県高教組委員長・福田幸夫さん(47)
 ◇教育現場への強制は違憲−−基本法改正案、国に都合いい人間育成


 国とは何かが出発点だ。政府は、国とは国家ではなく生まれ育った所、古里
という意味合いだという。小泉前首相は「歴史的に形成された国民、国土、伝
統、文化というような歴史的な文化的な国である」と述べた。しかし、教育基
本法は法律だから、国が出てくれば古里や郷土というイメージではなく、国家
や政治体制を指すようになる。今の国家体制を愛しなさい、守りなさい、それ
が当然だということにつながる。愛する愛さないという感情を法律に規定でき
るのか、ふさわしいのかという問題もある。

 改悪したい人は「最近の若者はだらしない、親や年上へ敬いがない」という。
自分が育ってきた所、育ててくれた人を愛し、大切にすることが必要とするが、
復古的、懐古的だ。

 今まで労働者、市民、企業を過当な競争から守ってきた規制を取り払って自
由競争社会を目指しているが、格差社会になれば、競争に負けた人の精神的支
えを作らなくては社会を維持できない。そこで、「競争に負けたかもしれない
が、共同体の中で国が守ってくれる」という幻想を抱かせようとしている。

 具体的にどうすれば国を愛することになるかは不明だ。気持ちの問題だから
「態度で示しなさい」となり、嫌いだとすれば通知表など評価が下される。自
分を否定されるのではと幼心に抱けば、思っても言わない、言われた通りにす
れば安全だいうことになるだろう。

 99年成立の国旗・国歌法を巡り、強制されるのではと危惧(きぐ)し、制
定時に強制するものではないという付帯決議をさせ、野中広務官房長官(当時)
の国会答弁でも強制するものではないと言わせたが、吹っ飛んでしまった。そ
う考えると、国会で愛国心は強制されるものではない、評価しにくいといって
も、通知表に何らかの形で具体化してくるはずだ。

 県内の高校でも05年3月の卒業式で、国歌斉唱時に教員1人が不起立で戒
告処分を受けた。「君が代を学校行事に強制的に持ち込むことは、児童・生徒
や教職員の思想・良心の自由(憲法19条)を侵す」と抗議したが、行政は教
職員といえども業務上のことだから、立ったり歌ったりするのは当たり前で、
良心の自由を侵害しているわけではないとした。しかし、自分の考えを表明で
きないことは憲法違反だ。今度は基本法改悪で、法的な裏付けを与えようとし
ていくだろう。

 憲法は、国民が「守る」のではなく、権力を持つ側に「守らせる」ものだが、
教育の憲法といえる基本法もこの考えを準用すれば、国民が権力者に教育の面
から暴走させないためのものといえる。しかし、改悪で権力を持つ人たちの法
律になる。国に都合のいい人間を育成し、競争を是として、強いものはどんど
ん強くなり、弱いものはどんどん厳しい立場に追い込まれていく社会を作ろう
としているとしか見えない。【聞き手・山下貴史】
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 ■人物略歴
 ◇ふくた・ゆきお
 鳥取市生まれ。83年に鳥取大教育学部を卒業後、県立米子東、八頭、鳥取
商の各高校や鳥取聾学校で英語教諭として教べんを執る。05年4月から現職。