『読売新聞』2006年9月27日付

東大解剖(2) 人材集めて寄付金集め


 東京大学の寄付を募る部署で、企業からの転職組が活躍する。

 30万円以上は銅、500万円以上は銀、1000万円以上は金、1億円以
上は白金色。色によって大きさも違うプレートが会社経営者や卒業生の心をく
すぐる。東大の象徴、安田講堂の階段の吹き抜けに昨年11月から、高額寄付
者のプレートが掲げられるようになった。プレートに載った人名や企業名は5
00近く。寄付を募る渉外本部(本部長・佐藤慎一副学長)の成果だ。

 昨年4月にできた渉外本部の副本部長(副理事)はリクルート常務から招か
れた竹原敬二さん(52)。新たに加わった11人のスタッフは、大手銀行や
大手ビル管理会社などからの転職組。さらに増やす構想もある。

 特任職員の吉田房代さん(41)は、元上司の竹原さんからの誘いもあって、
今年6月転職した。今は「東大が変われば、日本が変わる。東大を応援してく
ださい」と売り込む毎日だ。

 中堅企業の経営者に面談して東大への期待を発掘し、学内各分野の専門家と
相談しながら、約4000人の研究者の中からテーマに合った人を探し、共同
の取り組みを提案。基金への寄付や研究助成を依頼する。

 人件費まで賄う寄付講座開設には年間3000万円以上が必要だが、普通の
研究助成なら、数分の1で大学とのパイプが築ける。吉田さんは、ホームペー
ジ作成などを手がけるIT企業に社会科学研究所を紹介、中小企業の課題を探
る研究会作りを提案した。今夏、1000万円を超す研究助成が決まり、研究
会にはこの企業の社員も加わる。

                 ◎

 東大には2004年の法人化以降、大型の寄付が相次いでいる。

 昨年9月にはJR東日本が1億5000万円を寄付。安全安心について工学
的に探る寄付講座が開設された。昨年12月には、通信教育大手「ベネッセコー
ポレーション」の福武総一郎会長が16億5000万円を寄付。本郷キャンパ
スに「福武ホール」が建設中だ。15億円分は、この建築費になる。

 東大が法人化を機に作った基金は、大学創立130周年の来年度中に130
億円を積み上げるのが目標だ。「世界の一流大学と対抗するには、独自の資金
が欠かせない。優秀な人材を育てる奨学金も必要」(佐藤副学長)。しかし、
この目標は、ベネッセのような建物用の寄付を含めた数字だ。それでも、基金
はまだ半分強にとどまっている。

 一方、米国の有力私大は、独自に研究や奨学金に使える基金の額のけたが違
う。ハーバード大学は3兆円の基金を持ち、運用益だけで年間4000億円。
東大の予算の2倍になる。

 東大は9月、将来の資金調達も視野に、民間機関から最上級の格付けを取得
したが、日本の国立大は法人化後も、基金の運用が、国債や銀行預金などに限
られ、米国の大学のように、高利回りは期待できない。

 それでも、大学の総合力で群を抜く東大が、資金集めに走る姿は、他大学か
らは羨望(せんぼう)のまなざしも向けられている。集めた基金の使い道にも
注目が集まる。(杉森純)

 過去の寄付 安田講堂は、安田財閥の創始者、安田善次郎氏の寄付で、完成
は1925年。最近では、寄付で冠名が付いた建物に、一条工務店の「一条ホー
ル」(2000年)、電子計測機器メーカー「アドバンテスト」創業者、武田
郁夫氏の「武田先端知ビル」(03年)がある。ただ、国立大の法人化前は、
国の一組織である大学が直接寄付を集め、管理することはできず、建物も国の
ものだった。