『内外教育』2006年9月19日付

《規制改革政策の評価を》
          私学高等教育研究所主幹  瀧澤博三


 大学政策が規制改革のターゲットになって過激な改革課題が投げ掛けられる
ようになってから既に10年が経過した。振り返って、当初予想もしなかった政
策の変貌ぶりに驚くと同時に、そのような改革がどのような現状分析と政策評
価に基づいて行われたかを考えると何ともむなしさを覚える。

 結局は、消費者の個人的な選択が社会的にもよい教育を実現させるのだと言
う市場主義的な信念−過去の教育の歴史によって幾度か否定されてきた信念−
だけが論拠だったのではないか。

 ほかの分野に目を向けると、規制改革の急進展が半面で社会的な問題を起こ
し、是正に大きなコストを求められる事態が頻発している。新規参入で競争を
促した結果航空業界では運行トラブルが、タクシー・トラック業界でも労働強
化で交通事故が多発した。さらに、大規模小売店舗法の緩和とシャッター通り、
建築確認の民間開放と耐震強度偽装、日本版ビッグバンとライブドアや村上ファ
ンド等々。これらの分野では路線を修正せざるを得なくなり、再び規制を強化
するために前国会で行われた法律改正は20本にもなったと聞く。

 利益誘導型の土建国家に舞い戻るのはごめんだが、画一的に市場の理念を押
し通した無理があったのなら見直しはやむを得ない。特に教育分野では結果が
誰の目にも見えるようになるまでには年月を要するし、そうなってからではそ
の是正にさらに多くの年月と膨大なコストが掛かる。

 高等教育分野でも問題は多い。今の段階で規制改革政策の徹底した再評価を
求めたい。そこで疑問の多い高等教育の規制改革についての文部科学省の政策
評価を見ようとホームページをのぞいたが、「実績評価」は表面的で核心に触
れるものがない。規制改革の理念は情報公開と説明責任、国民の評価と選択を
最も大事にしているはず。規制改革政策の事前の評価が拙速で偏りがあり、事
後の評価にも率直さを欠くようであれば、日本の将来に残す禍根が恐ろしい。