『毎日新聞』鳥取版 2006年9月15日付

愛国心:学生調査−私の視点/8 「多義的な概念、議論が必要」 /鳥取


 ◇多くの外国人との対話も−−平和教育の研究に取り組む大東文化大講師
(心理学)・杉田明宏さん(47)

 「愛国心を感じたことがある」学生が77%――この結果をどう読むべきで
あろうか? 「大多数の学生は愛国心を感じている」ということがいえるのだ
ろうか?

 そのことを考えるためには、彼らのイメージした「愛国心」の内容を知る必
要がある。それを間接的に示唆しているのは、愛国心を感じた「理由」の項目
であろう。71%が国際的スポーツイベントで、30%が学術・文化での国際
的活躍に対して、22%が国際摩擦の際、15%が海外生活時に「愛国心」を
感じるという。

 1番目は、ゲームの世界で自分がひいきする人やチームが勝って味わう高揚
感や応援者同士の一体感。2番目は、高い評価を受けた個人や組織と同一視し
て、同じ集団(国家)に属するものとして味わう誇りの感情。3番目は、国家
(または指導者)の振る舞いに向けられる批判を自分自身の生命や生活への脅
威と解釈して起こる自己防衛的な反発、4番目は異文化の中で意識化する、自
分の中にある日本的な感じ方や振る舞い方のことである。

 これらをすべて「愛国心」という一つの言葉で語ることには無理がある。
「愛国心」概念がきわめて多義的であり、注意深く議論する必要があることを
この結果は示しているといえよう。

 その意味で、「愛国心」を、生まれ育った社会共同体への愛着である「愛郷
心」と区別してとらえている学生が6割を占めることは、分析的・論理的に問
題と向き合おうとする傾向が強いことをうかがわせ、注目される。左記の集計
表を見ると、「愛郷心」と違うとの認識の持ち主は、愛国心の必要性やそれを
教育基本法に盛り込むことに、より批判的であることが分かる。

 単純比較はできないが、教育基本法規定への6割を超える反対は、今年5月
に実施された朝日新聞の同様の調査で示された20代の反対(43%)を大き
く上回っている。

 米国の言語学者ノーム・チョムスキーは、「指導者の命令に反射的に従う」
愛国心と、「自分の国や社会の人々、そのひとたちの運命、自分の孫や近所の
人たち、それらに何が起こるのかを心配したり関心を払ったりすることに基づ
く」愛国心の2種類に区別する。国民が後者の意味で愛国心をとらえて賛意を
表したとしても、国家指導者が前者の意味の愛国心にすり替えていくという事
例は、歴史上いくつも見出すことができるはずである。

 大学生など若い層には、今回のような調査結果を題材にして、留学生などさ
まざま国籍の人たちとも対話しながら、冷静に、批判的に学んでほしい。