『朝日新聞』2006年9月13日付

文科省検討の教育バウチャー、効果は未知数


 教育を「サービス」ととらえ、供給する側の学校ではなく、受け手である住
民の意向にもとづいて質を向上させようという「教育バウチャー制度」。その
導入の可能性について、文部科学省が、有識者による研究会を立ち上げ、検討
を進めている。これまでの議論では、国によってさまざまな内容になっており、
教育効果の向上についても未知数の部分が多いとされ、評価は定まっていない。

 この制度について、自民党総裁選に立候補している安倍官房長官は著書「美
しい国へ」で、格差の再生産を防ぐ対策の一つとして期待されるとしている。

 教育バウチャーは一般的に、(1)子どものいる家庭が行政からバウチャー
と呼ばれる利用券を受け取る(2)公立、私立を問わず、子どもが通いたいと
思う学校に利用券を提出する(3)利用券の枚数に応じて、学校側が運営資金
を得る――という仕組みとされる。

 より多くの子どもを集めた学校ほど資金が潤沢になるため、学校選択制と組
み合わせることで学校間に競争原理が働き、教育の質の向上が期待できると考
えられている。

 文科省が昨年秋に立ち上げた「教育バウチャーに関する研究会」は、米国や
英国、ニュージーランド、チリなど諸外国の制度を調査した。それによると、
各国いずれも制度が異なり、どのような効果や問題点があるかは今後、さらに
検討の必要があるとしている。

 バウチャー制度に基づく公費の配分についても、単に子どもの人数だけで決
めているわけではないと見ている。例えば、英国は過疎地かどうかという地理
的要因や、障害のある子どもに対する経費なども含まれている。

 チリでは、導入の結果、公立から私立へ移った子どもの成績向上は一部でみ
られた。しかし、都市部の私立にとくに富裕層の子どもが集まり、低所得者の
子どもは地方の公立にとどまり続ける「階層化」が起きているとの報告がある
という。

 低所得者に対するバウチャーを導入しているのは、米国のミルウォーキーや
クリーブランドなどだ。学力向上の面では、「親の満足度は上がった」という
指摘があった。一方、対象者を所得制限で絞っているため、受給できない親か
ら苦情が出たという報告もあるという。

 文科省は今後、研究会の議論などを踏まえ、「だれを対象にどんな目的で、
どういったタイプのバウチャーなら日本に可能か」という視点で、検討を進め
る。