『中国新聞』社説 2006年9月4日付

県立広島大の法人化 地域貢献さらに充実を


 県立広島大が来春、公立大学法人に移行する動きが急ピッチで進む。法人化
後の大学運営の指針となる中期目標と中期計画の審議が始まった。基本理念の
「地域に根差した、県民から信頼される大学」の実現へ、正念場を迎えた。

 県の行政組織の一部である現在の同大は、定数や予算などは県が決定する。
法人化すれば大学が自らの責任と裁量で県の運営交付金の使い道を決め、教職
員を採用することになる。「大学全入時代」に生き残るため、機動的な運営で
特色を打ち出す道が開ける。

 法人化へ向け外部の識者も加わった設立準備委員会がこの春に発足。役員会
や経営審議会、教育研究審議会といった組織の在り方などについて議論を詰め
てきた。

 これから大学の特色づくりに直接かかわる議論に入る。県が示す中期目標と、
大学がこれを具体化させる中期計画である。対象はいずれも法人化後の六年間。
成果が分かりやすいよう、できる限り数値目標を盛り込む。

 「実践力のある人材育成」「高度な研究」などとともに大切なキーワードが
「地域貢献」である。

 同大はこれまでも地域に目を向けてきた。昨年から今年にかけ広島銀行など
県内の三金融機関、二都市と包括提携の協定を結んだ。金融機関や自治体のネッ
トワークを通じ、地域のニーズを掘り起こすのが狙いである。

 その縁で、広銀が造ったひろしま美術館と連携したユニークな公開講座「近
代日本の異文化体験」も実現した。一方、文部科学省が財政支援する「現代的
教育ニーズ取組支援プログラム」に、本年度は「学生参加による世界遺産宮島
の活性化」など二件が選ばれている。地域の歴史を長年にわたり掘り起こした
努力が実った。

 同大で開発したダイオキシン無害化法の実用化が、県内などの企業で進んで
もいる。研究が社会のニーズと結び付いた成果である。

 同大キャンパスは広島、三原、庄原の三市に分散する。不便な面もあろうが、
各地の住民が大学の人材を活用できる拠点が多いという利点にもつながる。教
員が各キャンパスを回って公開講座を開く試みなどを充実させてほしい。

 山口県立大がこの春に法人化するなど、公立大法人化の動きは全国で進む。
地域貢献や産業連携を掲げる大学は多い。産業の活性化に寄与するとともに、
地域の文化を市民と育てる「広島ならでは」の特色づくりを期待したい。