『読売新聞』2006年9月2日付

国立大が収益アップ大作戦、学内ロケ誘致に松阪牛飼育


 一昨年に法人化した国立大が、増収や経費節減に奮闘している。

 キャンパスをロケ地にしたり、育てた松阪牛を出荷したりして収入の増加を
図る一方、学内の蛇口に節水器具を付けるなど涙ぐましい経費節減も。どの大
学も黒字の確保を目指し、知恵を絞る日々が続いている。

 遠洋航海や漁業の実習用に100トン以上の練習船4隻を持つ東京海洋大。
原油価格高騰でも、燃料費がかさまないよう節約に努めたが、昨年度の燃料費
は前年度より2500万円多い1億2500万円かかった。その穴埋めに貢献
したのが、法人化後、受け入れ始めた学内でのロケだ。

 東京都江東区のキャンパスには歴史ある校舎が残り、最近では、映画「ハチ
ミツとクローバー」やテレビドラマ「野ブタ。をプロデュース」が撮影された。
昨年度は19回のロケで、約300万円の収入となり、「臨時収入は本当にあ
りがたい」と担当者は語る。

 収益を上げても国庫に入るだけだった国立大は、一昨年4月の法人化で独立
した裁量権を持つようになり、収益を独自の判断で学生や研究のため使えるよ
うになった。一方、国からの交付金は法人化以降、年々減額され、効率的な経
営も求められている。

 「収入増に加え、PRにもつながる」と、多くの大学がオリジナル商品の開
発に取り組む中、三重大は同大の農場で松阪牛の飼育を始めた。職員は、松阪
牛の農家を訪ねてノウハウを教えてもらったり、「神戸大学ビーフ」を東京の
デパートなどで売り出している神戸大に視察に行ったりした。

 牛舎を個室化し、自家製のワラを食べさせて大事に育て、今冬、市場に出荷
する。職員の一人は「松阪牛のブランドで肉の付加価値が上がれば、増収につ
ながる。神戸大には負けられない」と意気込む。

 東京農工大も今年1月、学内にアンテナショップ「農工夢市場」を開設。地
域住民らに大学の農場でとれた野菜や果物、ジャムなどを週1回販売している。
正午の開店前には行列ができ、昨年度は前年度比約121万円の増収になった。

 一方、経費節減を始めた大学も多い。

 「フタを閉めるだけで電力カット」「便器一つ年間800円節約」。京都大
は、暖房機能付き便座を低温に設定し、熱を逃さないため使用後はフタを閉め
るよう、張り紙で呼びかける。滋賀医科大は昨年7月、大学内のほとんどの蛇
口約2800か所に水量を制限する「節水コマ」を設置。「ちりも積もれば山
です」と担当者は苦笑する。

 宇都宮大は今年3月、大正時代に建築された旧講堂の仮修復を約30人の職
員が2日間かけて行った。これまでなら業者に任せるところだが、施設の管理
を担当する職員らにも呼びかけ、約200万円を切り詰めた。堀強財務部長は
「ちょっと手伝ってくれるだけで、かなり節約できることがわかった」と話し
ている。