『社会新報』主張 2006年9月6日付

主張
「安倍教育改革」
国家主義強化と同時に格差を拡大


 著書「美しい国へ」に表れた安倍晋三氏の思想や政策は、憲法・国家観や外
交・防衛政策をはじめとして、今後きちんと検討、批判されなければならない。
ここでは政権公約の柱の一つとされる「義務教育の構造改革」について見てみ
よう。

 安倍氏が、「自虐的な偏向教育の是正」などと並んで、義務教育の新自由主
義的改革推進を強調していることには注意が必要だ。

 安倍氏は、全国学力テストの結果に基づき100以上の低位校を「容赦なく
廃校にした」サッチャー教育改革を絶賛しつつ、「全国的な学力調査を実施、
その結果を公表するようにするべき」「改善が見られない場合は、教員の入れ
替えなどを強制的に行なえるようにすべき」「学力テストには、私学も参加さ
せる。そうすれば、保護者に学校選択の指標を提供できる」との主張を展開し、
教員免許更新制度や学校評価制度などの導入に言及している。

 さらに注目すべきは、格差が固定化されないためには「低所得者の子弟でも
高い水準の教育が受けられるような仕組みが必要」として、「対策の一つとし
て期待されるのが教育バウチャー制度」と述べていることだ。安倍氏は「それ
によって保護者はお金のあるなしにかかわらず、わが子を公立にも私立にも行
かせることができる」と断言する。だが、本当にそうなのか。

 学校選択の全面自由化、全国学テ結果公表、学校評価と併せてバウチャー
(利用券)が導入されれば、予算・補助金は評価や利用状況に応じて傾斜配分
されることになり、学校の序列化と選別・淘汰(とうた)は無慈悲に進む。他
方、今の学費や補助金の一部がバウチャーに換算されたとしても、教育費の自
己負担がなくなるわけではないし、むしろ財政難に陥る低評価校では増えるこ
とも予想される。その結果起きるのは、公立校制度の事実上の崩壊であり、階
層間格差と機会不平等が地域間格差としても拡大再生産されることだ。それは
もう始まっている。

 これと呼応するかのように自民党の教育基本法「改正」案16条(教育行政)
は、地方に「その実情に応じた教育」を求めると同時に、財政措置については
「教育が円滑かつ継続的に実施」の枠をはめるだけで、ミニマム保障には触れ
ていない。安倍氏が「人生の各段階で多様な選択肢」を用意すると言うとき、
それは格差社会という強いられた選択を自己責任として受け入れよということ
とほぼ同義だ。