『西日本新聞』社説 2006年8月24日付

「大九州大」構想 大胆な提案があっていい


 実現性はともかく、ときに大胆な提案があって議論が起きることは悪いこと
ではない。九州の「知」の国際競争力をいかにして高めるか。キヤノンの御手
洗冨士夫会長が1つのアイデアを出した。

 大分県佐伯市蒲江出身の御手洗氏が日本経団連会長に就任したことを祝う会
が、大分市で開かれ、御手洗氏が記念講演した。その中で、九州各県にある国
立大学を1つにして得意分野に特化させる「大九州大学」の設立を提案した。

 「イノベート(変革する)」をキーワードとする御手洗氏の考え方は月刊誌
「文芸春秋」8月号でも語られている。

 米国では、マサチューセッツ工科大学(MIT)などで、充実した施設に加
え、官民一体となって、優れた頭脳を世界中から集めている。基礎的な研究で
は日米の実力差は大きいと力説する。

 日本も国としての競争力を高めていくためには、総花的に予算をばらまくの
ではなく、数は少なくとも世界に冠たる研究機関をつくり、世界中から優秀な
頭脳を集めるべきだ。国立大学も大胆に統合し、横並びで置いてある同じよう
な学部を1カ所に集めようと説いている。

 人もモノもカネも注(つ)ぎ込んで、大規模な知の集積をつくるべきだ。九
州でいえば、九州大学には法学部と経済学部、熊本大学は理工学部、長崎大学
は医学部といった具合に集約して、全体として大九州大学をつくればいいとい
う。

 実際には各大学には長い歴史があり、地域に根付いている。大学関係者は現
実性がないと感じるかもしれない。

 しかし、九州の大学を核に世界的に高い評価を受けられる頭脳拠点をどうつ
くっていくかは大きな課題である。

 国際競争力の視点で、地域の大学のあり方を考える。23年に及ぶ米国勤務
経験があり、世界を意識して経営をしてきた御手洗氏らしい発想だろう。

 御手洗氏は1995年にキヤノン社長に就任すると、「選択と集中」を掲げ、
次々と不採算事業からの撤退を決め、短期間でキヤノンを高収益企業に生まれ
変わらせた。

 得意分野に力を集中させ、収益が期待できない分野からは撤退する。企業経
営者にとって「選択と集中」はいまや常識ともいえるものだ。御手洗氏も経営
者の感覚から、大学再編に選択と集中の原則を当てはめてみたといえる。

 だが、大学再編を企業の事業再編と同じように論じるべきではないとの考え
方もあるだろう。

 ただ、大九州大学構想の基礎には道州制がある。日本経団連は道州制を推進
する立場だ。大学だけでなく、さまざまな分野で「県」という垣根を外して考
えてみる。それで新たな発想が次々に生まれれば、それは歓迎すべきことだろ
う。