『毎日新聞』2006年8月10日付 ニュースワイドとちぎ:大学の知的財産権 実用新案で運営費工面 /栃木 ◇出願件数増加も、課題は資金化と意識改革 宇都宮大学は今月、初めて学生自身による実用新案権を特許庁に出願した。 04年度の独立行政法人化後、大学生き残りのための運営費の工面と、研究者 の意識を高めるため、知的財産権の獲得、保護に力を注ぎ、今年は「知的財産 センター」も設置した。結果、特許などの出願件数は増加してきたが、課題は、 権利をいかに資金に結びつけるか。「知恵でもうける仕組み」作りを模索して いる。【関東晋慈】 今月3日、実用新案を出願したのは、昨年、宇大工学部の必修授業「創成工 学」を受講した2年生。4、5人ずつのグループに分かれてアイデア開発に取 り組んできた。出願内容は、時計の構造をヒントにした足し算の計算機で、3 本の針を回転させて3けたの足し算が可能だ。1本目の針が、2本目の針が動 いた分だけ進むため、1本目の針は常に1本目と2本目の動いた分を足し示す 仕組み。3本目の針は独立しており、100の位を表す。 出願は、知的財産権のうち、物の形状などに関する「実用新案権」にあたり、 権利は発案した学生グループに帰属する。授業で生まれたアイデアを学生自身 が出願するのは全国でも珍しいケースという。グループ代表の同学部2年、西 川翔さん(19)は計算機を「小学校で広く使ってほしい」と話す。 労働力の安い東南アジア諸国などの追い上げで、大量生産の限界が指摘され る中、政府はハイテクなど産業を支える「知財立国」を目指す。3年目となる 「知的財産推進計画」が、今年も6月に策定された。今回の計画は、これまで 力点が置かれてきた知的財産権の保護や獲得の効率化などから、知財権を積極 的に活用していくための施策が中心となった。 宇大では今年度、外部から迎えた客員教授をセンター長に据え、「知的財産 センター」を設立。既に、全国の旧国立大学でも同様の組織を設置しているの は約20大学にのぼり、知財の権利化を積極的にサポート。地元企業など地域 との橋渡しを務める。 宇大が知的財産に力を入れ出したのは、04年度の独立行政法人化がきっか けだった。旧国立大学は同年度以降、国からの大学運営費が一律年1%ずつ、 宇大では約5000万円削減されることになった。このため、減額となった運 営費を賄うには、知的財産の活用が大きな武器となったのだ。 ただし、研究者の中では知的財産制度への興味は薄いという。出願には、論 文作成と比べ、時間もかかるうえ、手数料など約10倍の費用がかかるという。 論文への評価が中心だった日本の学会では、「知財の出願をするぐらいなら論 文研究に時間をかけたい」というのが本音のようだ。 出願件数は04年度の15件から、05年度は36件と倍増したものの、現 在384人いる研究者数からみればまだ活発とは言えない。研究支援を担当す る宇大の西田靖理事も「知財に関心を持つ研究者は1割いるかどうか。大学の 取り組みは、研究者への啓(けい)蒙(もう)という側面が大きい」と説明す る。今回初めてとなった学生の出願ケースは、権利が学生グループに帰属する 珍しいケースだが、知的財産への意識の高まりとして評価されている。 今後の課題は、出願を果たした権利をいかに資金につなげるか。宇大は、経 済産業省が主導して北関東4県と国立大学が参加する研究会にも参加し、活用 の促進方法について検討を進めるという。しかし、ともに参加する他県も「具 体的な活用は来年度以降になる」と話し、成果を上げるには道のりは遠いのが 現状だ。 宇大では出願済みの特許などについて、企業や一般向けの広報誌を作成した ものの、部数はわずか約500部で周知には至っていない。今後、ホームペー ジなどでの公開により、存在感をアピールしたいとしている。 |