ライブドアPJニュース 2006年8月2日付

東北大次期総長決まる=法人化後の大学の自治とは


【PJニュース 08月02日】− 国立大学法人東北大学(宮城県仙台市)の総長選
考会議は31日、吉本高志総長の任期満了に伴う次期総長候補者の選考を終え、
井上明久副学長を次期総長に選出した。井上副学長は、文部科学大臣の任命を
経て、11月6日に総長に就任する予定。

 東北大は2004年度の独立行政法人化に当たって、従来の総長選挙を廃止し、
学内外の有識者による総長選考会議が選出する方式に変更した。総長選考会議
は、1)教育研究評議会から推薦を受けた5名以内の候補者、2)経営評議会か
ら推薦を受けた5人以内の候補者、3)教授・助教授30人以上の推薦を受けた候
補者、の中から、次期総長を選出する。

 しかし、今回の選考では、総長選考会議は機能しなかった。教育研究評議会
から推薦を受けたのは井上副学長ただ一人、経営協議会から推薦を受けたのも
井上副学長ただ一人、教授らによる推薦はなかった。つまり、候補者は井上副
学長のみで、選考会議はそれを追認した格好だ。

 教育研究評議会は、56人の学内委員で構成される。教育研究協議会での総長
候補者の選考は、学内のすべての教員による投票によって行われた。3月14日
に投票結果が公表され、井上副学長が他を大きく引き離す票を得たため、井上
副学長一人を推薦することが決定した。

 一方の経営評議会は、30人(学内・学外各15人)の委員で構成される。総長
候補者の推薦は、学外委員による推薦を元に選考することになっていたが、3
月17日の同評議会で学外委員から推薦されたのは、吉本総長と井上副学長の2
人。しかも、今期限りの退任の意向を示していた吉本総長が推薦を辞退したた
め、結局は井上副学長一人が、ここでも推薦を受けた。

 教育研究評議会が行った投票は、法人化前の総長選挙とほぼ同じ形式による
ものであった。今回は、総長候補者を決定する前段階の「予備選挙」ではあっ
たが、教員の意向が示された意義は大きく、投票の結果が出た後に開催された
経営評議会による候補者選考にも強い影響を与えたことは間違いない。

 総長選考会議による総長決定は、国内初の試みとしてマスコミにも取り上げ
られたが、東北大学職員組合が「大学の自治を侵すもの」として強く反対し、
教育研究評議会でも反対意見が多く出されるなど、学内でも異論が出ていた。
しかし、ふたを開けてみれば、従来どおりの「選挙」であった。

 候補者が井上副学長のみであったことについて、総長選考会議の小田滋議長
(元国際司法裁判所裁判官)が、「個人的には決して望ましいことではない」
とする異例の談話を発表したが、そもそも、総長選考会議の設置は吉本総長の
総長決裁で制定(東北大学役員会懇談会は原案のまま了承)されたものであり、
選考会議の設置過程そのものに問題があるとする意見が絶えない。

 法人化によって、大学総長の権限は大幅に強化され、総長の裁量で配分され
る予算も格段に増大した。しかし、大きな権限を持つ総長だからこそ、透明で
民主的な選考が求められる。今回の東北大における総長選考の経過は、法人化
後の「大学の自治」のあるべき姿を問いかけている。【了】

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パブリック・ジャーナリスト 林亮一【宮城県】