『読売新聞』2006年7月26日付


[解説]4年制私立大学の定員割れ4割


 今春の入試で、定員割れに陥った4年制私立大学の割合が過去最高の40・
4%に上り、初めて4割を突破したことが、日本私立学校振興・共済事業団
(私学事業団)の調査で分かった。(社会部 富所浩介)

 ◆拡大路線の限界露呈

 私大を巡る環境は近年、大きく変化している。大学や学部を計画的に整備す
るために設けられた文部科学省の「量的抑制方針」が撤廃され、構造改革特区
では株式会社の大学経営も認められた。こうした規制緩和に伴い、各地には新
しいタイプの大学や学部が相次いで新設されている。

 私学事業団によると、今春は株式会社大学や通信制のみの大学を除き、8大
学が新たに開校し、41学部が新設された。その結果、全体の定員が昨春より
9258人増えて約44万人に達し、今回の調査で定員割れの割合を大幅に押
し上げる要因になった。

 これに対し、受験生の数は減少の一途をたどっている。文科省によると、1
996年度に約173万人だった18歳人口は、今年度約133万人に減った。
2018年度は約117万人になる見通しで、「需要と供給のバランスからす
ると、非合理的な現象」(清成忠男・法政大学学事顧問)が大学で起きている。

 なぜこんな状況が生まれるのか。

 大学間競争が激化する中、各大学は何とか学生を集めようと、最近人気の看
護・福祉系や幼児教育系の学部を次々と設置している。

 その一方で、人気低迷が指摘される工学部や、今春に4年制から6年制に移
行した薬学部などは今回の調査で志願者数を減らしたが、「既存学部の改廃は、
その学部に在籍する教授や学生の存在を考えると、容易ではない」(私学事業
団幹部)という事情がある。つまり、各大学が受験生の争奪戦に敗れないよう、
こぞって拡大路線をとり、結果的に私学全体の経営環境の悪化を招いていると
いう悪循環の構図だ。

 しかし、人気が高いとされる看護・福祉系学部も志願者数はすでに頭打ちの
状態で、私学事業団でも「こうした手法はもはや限界に来ている」と認める。
大学設置認可の規制緩和についても、「政府方針であり、規制強化への逆戻り
は考えられない」(文科省幹部)という状況で、今後は厳しい競争に勝ち残れ
ず、経営破たんする大学も増えてくると予想される。

 すでに私大の経営破たんを想定した対策も進められている。文科省は昨年5
月、破たん大学の学生保護プログラムを盛り込んだ「経営困難な学校法人への
対応方針」を公表した。破たん大学の学生受け入れを近隣大学に要請し、受け
入れ大学には入学金減免や修得単位の認定への配慮などを求める方針を示した。

 一方、私学事業団の有識者グループも今月、経営破たん対策をまとめた中間
報告を発表し、私大の経営悪化が確認された場合には、私学事業団が経営指導
に乗り出すという“イエローカード制”の導入を提言した。それでも改善がみ
られない場合には、“レッドカード”として、私学助成や融資の打ち切り、学
生募集の停止措置などに踏み切ることも求めている。

 来年度には大学の志願者数と入学者数が一致する「大学全入時代」を迎える。
私大の破たんを防ぐには、各大学の経営改善に向けた自助努力が不可欠だ。今
回の調査では、1校あたりの定員が100人未満の小規模大学が昨年度より定
員充足率をアップさせており、場合によっては学部数や定員を削減し、経営の
スリム化を図ることも必要だろう。

 近年、一部の有力校以外で“元気のある大学”は、学生の就職支援に力を入
れたり、ユニークな講義を実践したりと、特色ある教育研究で「個性」を発揮
しているところが多い。人気学部の新設で即効性を期待するより、まずは「大
学の質」を高め、学生や企業にアピールするブランド力を身につけるという、
地に足のついた改革が求められている。

 私学事業団の調査 私大550校、短大373校が対象。定員割れの割合が
これまで最も高かったのは2001年度の30.2%で、今回は一気に10.
2ポイントも更新した。大都市圏の私大が比較的堅調なのに対し、地方は定員
割れの状況が厳しく、二極化の傾向もみられた。