『西日本新聞』社説 2006年7月26日付

淘汰の荒波が押し寄せた 私大定員割れ


 少子化で受験生の18歳人口は減っているのに、認可基準の弾力化で私立大
学の入学定員は増えている。需要と供給のバランスが崩れ、そのひずみは定員
割れとなって顕在化する。

 定員割れは私学経営の根幹を脅かす。この状態を放置しておけば、経営が行
き詰まって、破綻(はたん)する私大が相次ぐ事態さえ招きかねない。

 今春の大学入試で入学定員を確保できなかった定員割れの4年制私立大学が
全体の4割を突破していたことが、日本私立学校振興・共済事業団の調査で明
らかになった。過去最悪の数字である。

 同事業団によると、全国550校の集計で、入学定員は約44万人と前年度
より約9300人(2.1%)増えた。しかし、受験者は逆に約7万1000人
(2.5%)減少している。

 この結果、調査対象の40・4%に当たる222校で定員を割り込んだ。こ
の比率は前年度の29・5%に対し、10・9ポイントもの急上昇である。

 助成や融資を通じて私大の財務状況に詳しい同事業団は「私大をめぐる経営
環境は悪化しており、今回は例年にもまして厳しい状況だ」と警告している。
私大関係者は厳しい現実をまず率直に認識すべきだろう。

 見逃せないのは、私大の規模と地域による格差が広がっていることだ。中小
規模の私大がほぼ軒並み受験者を減らしているのに対し、入学定員3000人
以上のいわゆるマンモス大学は定員増を受験者増に結び付けた。

 地域間の格差は、入学者を入学定員で割った入学定員充足率で見て取ること
ができる。全国平均の107・25に対し、中国、四国、九州など地方ブロッ
クで100の大台を割り込んだ。

 沖縄を含む九州は、入学定員が前年比463人増の3万3708人に対し、
入学者は1496人減の3万3000人だった。充足率は前年度の103・7
6から97・90へ下落した。

 数字の上で大学進学を希望する全員が大学へ入学できる「大学全入時代」の
到来は全国レベルで来年度からと見込まれているが、九州は一足早く全入時代
へ突入したと覚悟しなければならない。

 右肩上がりの経済成長と大学進学率の上昇に歩調を合わせ、私大は新設や学
部・学科の増設を繰り返してきた。だが、こうした一本調子の拡大路線では、
急速に押し寄せる淘汰(とうた)の荒波に対抗できないのは明らかだ。

 私大の改革は時間との闘いでもある。日常の授業や得意な研究分野で受験生
のニーズを先取りするような個性に一段と磨きをかける努力が欠かせない。教
職員の陣容や学部・学科の構成・規模も含めて、身の丈に合った経営環境を整
えるのも急務だろう。大学全入時代を迎え、私大は大胆な発想の転換と経営戦
略の再構築が求められている。