『河北新報』社説 2006年7月21日付

教員免許更新制/拙速な導入には疑問が残る


 これで教員の資質が本当に向上するのだろうか。中央教育審議会(鳥居泰彦
会長)が小坂憲次文部科学相に、いったん取得すれば終身有効な教員免許に1
0年の更新制を導入するよう答申した内容のことだ。

 期限切れ前に最低30時間程度の講習を大学などで受け、修了すると更新で
き、修了しないと免許は失効するという。

 教育を取り巻く環境の変化に即して、教員のレベルアップを図るのは当然だ
が、10年に1回、30時間の画一的なカリキュラムで、免許の更新、失効を
決めてよいものだろうか。教員の各種研修を充実させる方が先ではないか。文
科省は、来年の通常国会に教員免許法改正案を提出する運びだが、拙速な導入
には疑問が残る。

 答申は免許更新制について、「変化に対応できるよう教員の資質、能力を刷
新するため、現職を含め導入する」と前置きする。その上で(1)免許の有効
期限を新たに10年間とする(2)10年ごとに大学などで講習を修了しない
と免許が失効する(3)免許があっても教職に就いていない「ペーパー教師」
は、必要な講習を修了すれば免許を再取得できる―などとしている。

 修了しない場合、いったん免許は失効するが「回復講習」を受講すれば取得
が可能になるなど救済の道も設けてあるが、110万人の現職教員が対象にな
り、大学で単位を取れば、終身有効な従来の教員免許の在り方を大きく変える
ものになる。

 教員には、いじめや不登校児の増加、学習障害、注意欠陥多動性障害の子ど
もへの対応など、専門性、適格性を備えた資質、能力の向上が求められており、
その点、答申の趣旨は理解できないわけではない。

 中教審は「不適格教員の排除が直接の目的ではない」としているものの、わ
いせつ事件など教師の不祥事が相次ぎ、教員を見る社会の目が厳しくなったこ
とも免許更新制を意図した要因になっているのだろう。教員免許が絶対不可侵
の既得権益だとは思わない。

 だが、問題点も数多い。免許更新制は、教員に緊張感を与え、職能を高める
効果が考えられる一方、修了の認定は教育委員会に委ねられる結果、教育現場
が萎縮(いしゅく)し、教員一人一人の個性が発揮できにくくなるとの指摘も
ある。理想の教師像を求め、管理が強くなりすぎると弊害を生む。

 果たして、10年に1度の30時間程度の講習で教員の質の向上が図れるの
だろうか。全国一律の型にはまったカリキュラムを実施し、修了を認定したと
しても本当に実のあるものなのかどうか。教員の経験や力量を見極めながらき
め細かな講習こそ必要だ。10年経験者研修や、教科指導、生徒指導の専門研
修の充実を優先させた方がメリットがある。

 教員という職業は、今、若者にとって、魅力あるものになっているだろうか。
法や制度を変えるだけで、それが解決策になるとは思えない。教員免許更新制
は大きな改正だけに、十分な議論を尽くしてほしい。