『北陸中日新聞』2006年7月19日付

石川高専に予算削減の波
生き残りかけ独自性に知恵

河北潟 水質浄化貢献へ

 全国に五十五ある国立高専が、独立行政法人「国立高等専門学校機構」に移
行して二年四カ月がたった。予算削減の波が押し寄せ、各高専は独自性を打ち
出そうと知恵を絞る。津幡町の石川工業高等専門学校も例外ではない。企業や
自治体と連携を強化し、生き残りをかけた多角的戦略に取り組む様子を紹介す
る。 (津幡通信部・網信明)

 「クリーンエネルギーである風力を使って河北潟の水質浄化ができないか。
わが校が技術提供することで地域貢献できないかと考えています」

 石川高専の金岡千嘉男校長は、一月に津幡町と結んだ相互協力協定に基づく
具体的な取り組みの目玉として、長年の懸案となっている河北潟の水質汚濁の
改善へ向けた共同研究に意欲を示す。

 石川高専が地域とのかかわりを積極的に模索する背景には、国立高専の法人
化による学校経営環境の変化がある。

 文部科学省は、国立高専機構に交付する予算を二〇〇六年度から五年間にわ
たり毎年1%ずつ削減する。五年間で約二十五億円も減らす計算で、実に高専
二校分の年間予算に相当する。

 金岡校長は「座って待っていれば学生が集まり、学校経営が成り立つ時代は
終わった。人気の低い高専は近い将来、学科の統廃合や規模縮小が迫られるだ
ろう」と危機感を募らす。「地域に身近で頼られる高等教育機関という存在価
値を発信し続ける必要があるんです」と力を込める。

 河北潟の水質浄化は、機械工、環境都市工など五学科の技術力を結集した
「学科横断的なプロジェクト」として位置づけ、数年以内の実用化を目指して
いる。

地元企業で職場体験も 

 地元企業との関係強化にも乗り出す。県内の機械、電気関連の中小企業の若
手技術者に対する人材育成事業を始める。

 高校普通科や大学文科系学部を卒業し、各企業の技術部門で働く二十代社員
が対象。技術系の基礎知識に乏しく、企業内で業務経験をしながら仕事を習得
するには時間がかかる社員に、製品製造に必要な設計や製図、加工技術の基礎
知識などを、終業後の時間や休日に同校で学んでもらう。

 手始めに八月から二十代の若手社員十人程度を受け入れ、〇七年度以降は受
け入れ人数を毎年二十人に増やす計画だ。

 一方で、石川高専の専攻科の学生を、逆に県内企業へ派遣し、労働体験を通
して実務を学ばせる長期インターンシップも九月から始める。

 派遣期間は三カ月と長いのが特徴。派遣前に、社会人として必要なあいさつ
やマナーを学び、派遣先企業から労働内容の説明も受けるなどの事前教育も施
す。派遣中も教員が巡回指導に当たり、学生から定期的に報告書を提出させる
など実効性ある内容にする。

 専攻科長の桜野仁志教授は「じっくり社会経験してもらうことで、就職後も、
学校で習得した知識や技術をすぐに実務に応用できる力をつけさせたい」と期
待する。

 「石川高専の挑戦はまだ道半ば」と金岡校長。「高専は大学ほど規模が大き
くなく、小回りが利くのが強み。地元自治体や企業との関係をさらに密接にし、
大学にない高専の独自性をどんどんアピールし続けたい」といい、地域ととも
に歩む高等教育機関を前面に打ち出すことが生き残りの道ととらえている。