『西日本新聞』社説 2006年7月18日付

破綻の備えは大丈夫か 私大経営難


 経営難に陥って破綻(はたん)する私立大学が相次いだらどうなるか。在学生
は就学の機会を奪われ、教職員も路頭に迷いかねない。何よりも最高学府の
「倒産」は、教育機関に対する社会的な信用を失墜させ、大きな混乱を招いて
しまうだろう。

 そんな事態はぜひとも避けたい。だが、「悪夢のシナリオ」は現実味を増し
ている。では、どう対処すべきなのか。

 私立学校に対する助成や融資をしている日本私立学校振興・共済事業団(私学
事業団)の有識者研究会が、私大を中心とする私立学校の経営危機を未然に防
ぐとともに、破綻した場合の対応策を探る中間報告をまとめた。

 その骨格は、銀行など金融機関を対象にした破綻処理の枠組みに似ている。

 まず、私学事業団が、私学の経営状態を定量的に判定できる指標をつくる。
事業団はこの経営判断指標に基づいて各学校法人を定期的に監視し、財務的に
問題のある法人を事前に把握しておく。

 そこで「経営上看過できない兆候」が認められた場合、事業団が破綻予備軍
の「イエローゾーン」とみて、学部・学科の再編や遊休資産の処分、借入金の
返済など再生計画の指導・助言に乗り出す。金融機関の早期是正措置に相当す
る。

 一定の期間を経ても改善しない場合は、文部科学省が経営改善計画の提出を
求める。それでも経営が悪化して「学生が在学中に破綻する恐れ」に陥った学
校法人は「レッドゾーン」とみなし、私学助成・融資の停止に踏み切り、学生
募集を打ち切る―。こうした私学の破綻処理は一見「荒療治」のようにも見え
るが、実は遅きに失した感がぬぐえない。

 わが国は来年度、大学進学を希望する受験生は数字の上では全員が大学へ入
学できる状況を迎える。18歳人口が減っているのに、私大の入学定員は増え
ているからだ。「大学全入時代」の到来である。私大経営も冷徹な市場原理に
基づく「淘汰(とうた)の時代」が訪れることは、早くから予測され、警告もさ
れていた。

 昨年度は私大の3割、私立短大の4割が定員割れした。実質赤字の学校法人
の割合は一昨年度の決算で大学の25%、短大の36%に及ぶという。昨年、
定員割れによる資金不足で萩国際大(山口県萩市)が初めて民事再生法の適用を
申請したことも記憶に新しい。

 中間報告では、破綻状態に陥った場合に備え、大学間で学生を受け入れる協
定を締結するよう求めるとともに、経営基盤を強化する上で合併も「1つの有
効な手段」と提言している。私大関係者は緊急課題と深刻に受け止めてほしい。

 経営の透明性を高め、情報公開を進めることも重要だ。「風評被害」を恐れ、
学生数や財務状況などの公表に消極的な学校法人も少なくない。税制上の優遇
措置や公的な補助金を受けている以上、納税者に対する説明責任は重いことを
あらためて強調しておきたい。