『読売新聞』九州版 2006年7月17日付

「へき地」条件、医学生奨学金導入相次ぐ…長崎は4割超赴任拒む


 過疎地域の医師不足が深刻化するなか、医学生を対象に、へき地勤務を条件
とした奨学金制度を設ける自治体が増えている。

 九州・山口では5県が導入し、沖縄県も検討中。卒業後、へき地に勤務すれ
ば返還が免除されるが、実際には奨学金を返還し、都市部に出てしまうケース
もあり、へき地医療の担い手育成を目指す自治体の模索は今後も続きそうだ。

 奨学金制度は、出身都道府県の過疎地などで9年間の勤務を義務づける自治
医大(栃木県)をモデルに、山口、佐賀、長崎、宮崎、鹿児島の各県が導入し
た。

 うち、1970年度から始めたのは、離島を多く抱える長崎県。入学金や授
業料、生活費として、最大6年間で計930万円を貸し付けている。卒業後、
奨学金を受けた年数の2倍の期間、過疎地を含む県内の公的医療機関に勤務す
れば、返還が免除される。

 これまで計131人が奨学金の貸し付けを受けたが、54人が県外の医療機
関を目指したり、へき地勤務を拒んだりして、奨学金を返した。返還が4割を
超える事態に、県は離島の診療所で研修や現場の医師と意見交換するプログラ
ムも取り入れているが、担当の県医療政策課は「学生の時から、へき地医療へ
の認識を深めてもらうことが必要」と説明する。

 小児科や産婦人科が休診に追い込まれる公立病院も出てきたことを踏まえ、
佐賀県は昨年度から小児科医を対象にした奨学金制度を始めた。今年度からは
産科も対象に加えた。県内で働く意思のある医学部学生と大学院生が対象で、
学生には年間122万8000円、大学院生には年間150万円を貸し付ける。
定員は小児科が4人、産科が1人で、小児科は昨年度、定員通り確保できたも
のの、今年度の応募者は3人だけ。産科については一件の問い合わせもないと
いう。

 今月から奨学金の募集を始めた宮崎県の対象は、小児科、救命救急科、麻酔
科、へき地の公立病院・診療所への勤務希望者。計4人の枠を設けたところ、
両親を中心に、20件近くの問い合わせがあったという。

 県医療薬務課は「学費の負担が軽くなり、卒業後も地元に戻ってもらえるた
め、親には一石二鳥。だが、当の学生が申請してくれるかどうか」と気をもん
でいる。

 鹿児島県は昨年度から大学院生を対象に同様な奨学金制度を始めたが、応募
者はいない。山口県は今年8月から募集を始める予定。

 離島医療に積極的な取り組みを続ける国立病院機構長崎医療センター(長崎
県大村市)の高山隼人・救命救急センター長は「奨学金制度の意義は大きいが、
適性や資質の問題もあり、利用者の全員がへき地医療に携わると考えるべきで
はない。現場は常に人手不足だが、長崎では6割ほどが残ってくれている。奨
学金が利子付きで返還されれば、行政側も損にはならないと思う」と指摘して
いる。