『河北新報』社説 2006年7月7日付

揺れる山形大医学部/大学自ら真相の究明を


 談合事件への関与、論文捏造(ねつぞう)疑惑―。山形大医学部の麻酔科学
分野で、不明朗な体質をうかがわせる不祥事が表面化している。

 研究にとどまらず、地域医療を支える役割が期待される地方国立大医学部の
運営は、公明正大であらねばならない。山大は説明責任を果たすべきだ。

 談合事件は県立新庄病院を舞台に発覚。同病院手術部長の医師(52)が2
004年12月に行われた麻酔器納入の入札で、特定業者に落札させようとし
たとして、競売入札妨害の疑いで業者ら計6人とともに逮捕された(略式起訴
済み)。

 山形県警の調べで、医師は当時の山大麻酔科教授(49)の指示を受け、談
合を仕切っていたことが分かり、教授も事情聴取を受けている。

 教授は他大学講師から03年8月、山大教授に就任した。当時、助教授だっ
た医師は部下に当たり、医師が新庄病院に赴任した後も強い影響力を保持して
いた。

 山形県は医療機器の購入権限を各県立病院に付与。病院側は機種選定審査会
や指名業者選定審査会を設置し、公正な入札を担保する体制を整えていた。

 だが今回のケースは、教授―助教授というかつての職階を背景に、強い立場
にある者が独立した存在であるはずの県立病院の機種選定にまで口出ししてい
た実態を明らかにした。問題はシステムではなく、関係性の力学にあった。

 手術に欠かせない存在でありながら、その黒子的性格故に、社会的認知度が
低い麻酔科医は全国的に不足している。山形県内の自治体病院も、多くが山大
に麻酔科医の派遣を依存しており、山大の意向に異を唱えにくい環境にあった
ことは想像に難くない。

 裏返せば、「元締め」の山大の取り込みこそが、業者にとって県内での営業
成績を左右する一大関心事だった。麻酔科医不足が、皮肉にも一教授への権限
集中を招き、発言力の増大につながったと言わざるを得ない。

 もう一つの問題、論文データの捏造疑惑にも同じ教授が関与した可能性が浮
上している。

 麻酔科学分野の研究チームが05年4月に発表した、子宮がん患者のリンパ
節切除と膵臓(すいぞう)障害の因果関係を検証した論文。女性医師が筆頭筆
者を務めたが、術前のデータが不足していたにもかかわらず、成人の正常値に
近い値を追加使用した。 相談した女性医師に対し、教授は「正常値を使って
おけ」と指示したという。

 大学側は3日、調査委員会を設置、事実関係の解明に乗り出した。研究面で
も教授の強引な手法がまかり通っていたとするなら、ゆゆしき問題だ。

 昨年5月、教授は突然、学部内の別のセクションに配置換えになった。大学
側は麻酔科の一連の異常事態を、人事異動などという小手先の対応で乗り切ろ
うとしてはならない。

 「地域医療の拠点」を標榜(ひょうぼう)し、「大学の自治」を守りたいの
なら、まず大学自身の手で真相を明らかにすべきだ。