『毎日新聞』2006年7月3日付

早大不正問題:各研究機関に波及 財務省が予算執行を延期


 早稲田大理工学部の松本和子教授による不正使用が明らかになった国の「科
学技術振興調整費」のうち、各研究機関に今年度新規配分される予定だった約
106億円が宙に浮いている。問題を重視した財務省が、予算の執行を延期し
たためだ。配分先では既に研究を始動させているところも多く、突然の「凍結」
に戸惑いが広がっている。

 振興調整費は、国の総合科学技術会議の基本方針に従って文部科学省が対象
分野を設定、課題を公募・評価して配分する競争的研究資金だ。今年度は総額
約398億円。新規採択は79課題で、大学や研究所など50機関に計約10
6億円分を配分することになっている。

 文科省は通常、7月1日に各機関と契約、7月中旬から研究費を支給する。
その間に研究が始められるよう、各機関が契約日以降に使った費用は経費とし
て認めてきた。

 ところが今回の不正発覚を受け、財務省は先月下旬、支給に先立ち、各機関
が要求した経費の中身を精査し直すよう文科省に要請した。

 文科省の結城章夫事務次官は「作業を進めており、支給の遅れが1カ月を超
えることは避けたい」と話すが、まだ契約日も決められない状況で、共同研究
も含めると100機関以上が影響を受ける見通しだという。

 北陸先端科学技術大学院大学(石川県能美市)は材料科学分野の研究人材育
成事業が採択され、今年度は2億5000万円を要求した。業績が上がれば終
身雇用権を与えるとして、講師8人を世界から公募している。潮田資勝学長は
「科学雑誌に求人広告を出したすぐ後だった。10月の着任と同時に研究を始
めてもらう準備も必要だが、見通しが立たない」と話す。

 女性研究者を支援するプログラムが採択されたお茶の水女子大(東京都文京
区)では、支援対象となる5人への内定通知を保留中だ。研究者を支援するス
タッフとして公募した12人との雇用契約も結べずにいる。「要求通りの額を
いただける保証がない。不足分を大学予算から出す余裕もない」と羽入佐和子
副学長。

 東シナ海の赤潮対策を日中韓で研究する計画を立てた長崎大の松岡数充教授
は「手続きの遅れは、研究の進行にも影響する。日本だけの問題ではない」と
話す。【下桐実雅子、元村有希子、山田大輔】