『毎日新聞』広島版 2006年7月2日付

スクランブル:広大に「平和担当」副学長ポスト新設 /広島


 ◇「平和を希求する精神」、国内外に発信高める

 広島大に1日付で、被爆や平和についての研究や社会貢献事業などを統括す
る「平和担当」の副学長ポストが新設された。被爆地・広島の国立大学として、
平和への取り組みを国内外に発信する力を高めるとともに、キャンパスが分散
するため学内の連携が弱かった課題の解消も目指す。創設に至った背景や展望
を探った。【宇城昇】

 ◇「知の拠点」構想に学内連携

 初代の「平和担当」は、教育・研究担当の谷口雅樹副学長。就任が内定した
先月20日の会見で「広島大の平和を希求する精神を、第三者がみても分かる
ように発信したい」と意欲を語った。

 「平和を希求する精神」は、広島大が掲げる理念5原則の第一番目。しかし、
学長の諮問機関「ビジョン委員会平和希求部会」が今年2月に出した答申は辛
口だ。「実現に向けた全学的な指針がなく、十分な取り組みがなされていると
はいえない」などと批判した。

 とはいえ、個別には国内外で高く評価される業績がある。原爆放射線医科学
研究所(原医研、南区)は、チェルノブイリ原発事故や旧ソ連・セミパラチン
スク核実験場周辺の被害調査や医療支援に貢献。文書館(東広島市)や平和科
学研究センター(中区)は貴重な被爆資料の収集や発信に努めている。国際協
力や放射線研究の分野では、文部科学省の21世紀COE(卓越した研究拠点)
プログラムに採択された研究もある。

 これまでの連携面での課題には、キャンパスが広島市内や東広島市に分散す
る事情もあった。そこで総合的な取り組みを進めるために、担当副学長が統括
する「平和希求委員会」を7月中にも創設する。部会から提案された▽在学生
への平和教育プログラムの確立▽世界的な平和研究のネットワーク化▽研究成
果を公開講座などで社会に発信−−などの事業を検討する。ノーベル平和賞受
賞者を毎年、広島に招いて講演会を開く案もあり、大学側が具体的な準備に入っ
ている。

 国内有数の総合大学とはいえ、大学間競争の時代にうかうかしてはいられな
い。牟田泰三学長は「広島にある大学として平和への取り組みが大切なのは当
たり前だが、誰がみても分かるような大学の独自性に高めたい」と話し、世界
の平和の「知の拠点」の構想を視野に入れている。