『毎日新聞』2006年6月24日付

歳出入改革:5年シーリング 削減、抑制額分野ごとにタガ


 政府・与党が概要をまとめた歳出歳入一体改革案案は、2011年度までの
歳出削減の道筋を示す「5年分の概算要求基準(シーリング)」を目指してい
る。社会保障費は国と地方合わせて1兆6000億円、防衛関係費は伸び率ゼ
ロなど、歳出分野ごとに削減・抑制額のタガをはめた。ただ、毎年度内容を見
直す「弾力条項」を盛り込んでおり、歳出削減が実現される保証はない。「5
年シーリング」が財政再建に貢献するかどうかは、ポスト小泉政権の実行力に
かかっている。

 概算要求基準は、財務省が毎年7月末から8月に決める次年度予算への概算
要求の上限。歳出歳入一体改革案の内容は7月に閣議決定される「骨太の方針」
に盛り込まれ、ポスト小泉政権にも「5年シーリング」として意味を持つ。

 ただ、はっきりと削減額が固まっているのは自民党内で反対の少ない公務員
人件費の2兆7000億円のみ。公共事業費は、これまでの前年度比3%削減
のペースを維持することにしたが、来年夏に参院選を控え参院自民党を中心に
反対論が噴出。「資材価格や賃金などのコスト増が生じうることを考慮する必
要がある」と、必ずしも3%削減には縛られないようにする"逃げ道"も確保し
た。

 社会保障費の削減についても、具体策は雇用保険の失業給付国庫負担や生活
保護の母子世帯加算の廃止を含む見直しなどを提示したにとどまり、大部分は
今後の予算編成過程での検討に委ねられた。

 一体改革の出発点となる11年度黒字化への必要財源額は、政治主導の決定
過程の中で当初の試算(20兆円)から大幅に圧縮された。足元の景気回復や
成長戦略による税収増の見通しをできるだけ取り込んだ結果だが、景気が腰折
れしたり成長戦略の効果が期待外れに終われば、財政再建へのシナリオが根底
から崩れることになる。

 さらに、歳出歳入一体改革で与党主導の形がとられたことで、政策決定過程
の透明度が低くなったという問題もある。政府の経済財政諮問会議に比べ、与
党の議論は途中経過の資料や議事要旨の公開が少ないためだ。歳出改革は国民
生活に特に大きな影響を与えるだけに、与党内でどのような利害調整がされた
のか、試算や結論に妥当性があるのかを検証できる仕組みが必要になりそうだ。
【古田信二、尾村洋介】