教育基本法「改正」情報センター事務局です。

通常国会の閉会に際して、教育基本法「改正」情報センターは、
6月22日付で以下のような声明を発表しました。


声明
通常国会審議を総括し、政府法案は廃案とされるべきことを三たび訴える
―“教育そのものの破壊”と“教育における格差の拡大”をくい止めるために

          2006年6月22日 教育基本法「改正」情報センター




 第164通常国会は6月18日、閉会となり、政府が提出した教育基本法改正法案は継続審議となった。
 教育基本法「改正」情報センターは、政府提案による教育基本法改正法案の持つ問題の広がりと深さに対応した審議を行なうこと、厳密なる審議のもと、同法案を廃案とすべきことを求めてきた。そして、審議期間中に国会と市民・NGOとの間のインターラクティヴな関係を実現すべく、国会関係者への強力な要請と真摯な問題提起を行なうと共に、市民・NGOに最新情報を可能な限り立体的かつわかりやすく提供する努力を続けてきた。
 しかし、甚だ遺憾なことに、法案を廃案に追い込むには至らなかった。


 今国会における論戦は、政府法案の持つ問題の広がりと深さに必ずしも対応したものとはならなかった。
 審議における論戦は、改正案の狙いの新国家主義的側面に集中した。このことが、通知表における愛国心評価の項目の是正など、現存する教育行政の暴走に一定の歯止めをかける役割を果たしたことは確かである。しかしながら、法案2条に基づいて道徳教育を軸に再編されることにより、教科教育がどのように変質してしまうのかという重大な問題は国会審議においてまったく取り上げられていない。
 そしてより重要なことは、現行法1条(教育の目的)の修正と、2条(教育の方針)の削除、そして10条における教育の直接責任の削除によって、国家と個人の関係の180度転換がなされていること、そして、法案16条、17条によって正当化される新自由主義的側面についての論戦が端緒についたばかりだ、ということである。今なぜ、これらの改正が必要なのか。それは深刻な教育の問題の何を、どのように解決することになるのか。国家が教育内容に関する標準目標を法定し、全国・全員に対する学力テスト(悉皆調査)の実施による評価、学校選択、テスト結果に基づき財政配分を加減するというアメとムチの規制――新自由主義教育改革が、子どもの成長発達を歪め、経済格差を拡大していくことにならないといえるのか。議員からの追及に対して、政府は明確に回答せず、学力テスト成績の公表の仕方を市町村に適切に指導するといった小手先の答弁に終始した。



 国会審議・論戦には以上のような弱点があるとは言え、長時間にわたる与党議員による質問とそれへの政府答弁をもってしても、政府と与党は、教育内在的な改正理由を遂に論証できなかったことは重要視されるべきである。
 こうした結末は、政府法案が教育外在的な理由に基いてつくられたものである以上、必然だったといってよい。政府案の先にある教育改革は、日本が国際的な経済大競争を勝ち抜くための指導層として選別された少数の人材に予算や教員などを重点配分し、他の圧倒的多数の者の教育にかかるコストは徹底的に切り詰めるものとなる。そして、後者が社会の現状に不満を抱かないようにするために、道徳教育と異端者排除の徹底がめざされる。すでに全国で進行している「改正」の先導的施行は、“教育そのものの破壊”と“教育における格差の拡大”を帰結するに違いない。これらを批判する議論が国会外で巻き起こるならば、臨時国会における論戦を突き動かすことができよう。そのことが、法案を廃案に追い込む大きな力となると確信する。


 国会審議を振り返ってさらに指摘しなければならないのは、その審議方法の欠陥である。衆議院教育基本法に関する特別委員会では、準憲法的性格を有する教育基本法の全面改正問題にふさわしい審議方法とするための工夫がまったくなされなかった。
 第1に、特別委員会方式が採用されたことによって日程が過密となり、一つ一つの論戦において明らかになった問題を検討して、その検討結果を国会審議へフィードバックする時間が、この問題に関心をもつ国民はおろか、国会議員自身にさえ与えられなかった。第2に、議長による論点整理もないまま、議員がその個人の、あるいは所属する政党の関心に基づいて質問をしていったために、議論が無秩序に進行していった。そして、第3に、逐条審議がなされなかったために、法案の細部と全体像双方とも不明のままとなってしまっているのである。


 既に、6月12日付の本センター声明でも述べたように、政府提出の法案は新しい首相によって9月末または10月初めに召集されるであろう臨時国会の冒頭において廃棄とされるべきである。仮に審議入りするとしても、基本法改正問題にふさわしい審議方法のもとに法案の厳密な審議を行い、その上で法案は廃案とされるべきである。
 これらを実現するために、本センターは今後とも、教育基本法改正の持つ問題の広がりと深さを明らかにするための分析と、その公表に努める所存である。国会閉会中は、衆議院特別委員会における審議経過と論点の批判的検討を公表する予定であるほか、教科教育の道徳教育化や、悉皆方式の学力テストなどの分析にも力を注ぐことにしている。各地の情報や実例の提供など、本センターの活動へのご協力をお願いしたい。
 最後に、緊急電子署名に賛同・協力いただいた1600名以上の方々、国会傍聴記を寄稿してくださった市民の方々、審議を丁寧に分析して批評を寄せてくださった弁護士の方々、審議情報を寄せてくださった国会関係者、そして、このHPを閲覧していただいたすべての方にお礼を申し上げたい。



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教育基本法「改正」情報センター
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