『東京新聞』2006年6月19日付

臨時国会成立へ『法案先出し』
過去3回いずれも不発


 18日に閉会日を迎えた今国会は、教育基本法改正案などの重要法案が軒並
み継続審議となり、成立が先送りとなった。そんな中、自民党は、会期内成立
は無理を承知で法案を提出する戦術を取った。次期国会での成立を見込み、提
出だけを「先出し」するという戦術だが、従来の国会対策からは「奇策」とい
える。過去の例をひもとくと、今後の展開には波乱が予想される。(新開浩)

 政府が今国会に提出した法案九十一本のうち、成立を見送ったのは九本で、
成立率は90・1%。ただし、教育基本法改正案など、国会終盤に出した三法
案の提出を見送っていれば、成立率は93・2%にアップしていた。

 それでも、政府・与党が提出に踏み切った動機は二つある。

 一つは、会期延長を前提にした提出だ。教育基本法改正案を提出した四月二
十八日は、昨年の郵政民営化関連法案の提出日からわずか一日遅いだけ。与党
が昨年並みの大幅延長をし、成立にこぎ着けたいと期待していたことをうかが
わせる。ただ、この考えは、小泉純一郎首相が延長に難色を示したためにかな
わなかった。

 もう一つの理由が、自民党の武部勤幹事長が唱える「先出し」論。次期国会
での早期成立を見込んだ法案で、閉会日の一カ月前に提出した北海道道州制特
区推進法案や、残り会期わずか十日間で提出した防衛省昇格関連法案が典型だ。

 これらの法案は、提出段階で通常国会での成立は絶望的だった。しかし、武
部氏は「提出することで国民の関心が巻き起こり、次の国会で実りある審議を
する」と、「先出し」の狙いを説明。「決して課題の先送りではない」と主張
する。

 政府が、通常国会の閉会日まで残り一カ月足らずで法案を提出し、継続審議
となった例は、過去十年間に三回ある。

 だが、これらの法案はいずれも次の臨時国会でも継続審議となり、翌年の通
常国会まで成立を持ち越した経緯がある。

 一九九九年七月に提出した年金制度改正関連法案は、十二月の臨時国会の衆
院厚生委員会で、与党が強行採決したことに野党が反発し、国会が空転。参院
で継続審議となった後、翌年三月に衆院で再度可決した。

 また、九七年六月提出の公選法改正案は、在外邦人の投票を衆参両院選挙の
比例代表に限って認める政府案と、衆院小選挙区と参院選挙区にも認める野党
案との折り合いが付かず、成立を翌年四月に持ち越した。

 民主党が対決姿勢を強めていることを踏まえると、こうした先例が繰り返さ
れる可能性は高い。

 仮に防衛省法案などの成立が、来年の通常国会まで持ち越されれば、来春の
統一地方選や夏の参院選の争点に影響を及ぼす事態も予想される。

 「先出し」戦術の成否は、秋の臨時国会が終わるまで分からない。