『神戸新聞』2006年6月18日付

法科大学院"乱立" 学生の不安拡大 司法試験合格2割台も 


 司法改革の柱として導入された法科大学院(ロースクール)で、「修了して
も司法試験に合格しない」層が増えるという不安が広がっている。制度導入時
は七-八割とされた合格率が、数年後には二割台に落ちるといわれ、大学院修了
は法曹への"パスポート"との認識は半ば崩壊。兵庫県内五つの法科大学院でも、
聴講生制度や就職のあっせんなど受け皿づくりに乗り出した。(徳永恭子、宮
本万里子)

 法科大学院の修了生が挑む新司法試験は今年五月に初めて行われ、法学部出
身者らが対象の既修コースを三月に修了した約二千百人が受験した。

 文部科学省は当初、法科大学院の設置を四十-五十校と考えていたが、実際は
七十四校が開校。法務省は今年の試験の合格者数を九百-千百人とする指針を出
したため、当初七-八割と見込まれていた合格率は四-五割に低下することにな
る。

 法務省は来年度、現行司法試験の合格者数の縮小に合わせ、新試験の合格者
数を今年の二倍に広げる方針だが、法学部出身者以外の未修コースの修了者も
受験するため、合格率は三割程度に下がる見通し。その後も不合格者が再度受
験することなどから、関係者の間では合格率が二割台にまで下がると予想され
ている。

 「学生から将来への不安の声が聞こえる」。関西学院大の安井宏研究科長は
打ち明ける。同大は四月から、修了後も研究施設や自習室を利用できる研修員
や聴講生として受け入れる制度を設けた。合格しないまま受験資格を失った修
了生についても懸念し、自治体や企業に採用の特別枠を設けてもらうよう働き
かけも始めているという。神戸大は「単位認定や試験の基準を厳しくすること
も考えなければ」とする。

 こうした状況に男性の大学院生(28)は「(合格しなければ)年齢は高く、
専門知識はあるけど資格はない。一般の就職ではつぶしがきかないのでは」と
不安を漏らす。

 文部科学省専門職大学院室は「もともと入学すれば司法試験に合格するとい
う制度設計ではない。五年三回のチャンスを生かしてもらいたい」と強調。
「大学院の新規参入の動きはぴたりと止まった。大学側も動向を見極めている
のだろう」と話している。

法科大学院と新司法試験 法科大学院は2004年4月から全国74校で開校。
法学部出身者向けの既修コース(2年)とそれ以外の未修コース(3年)があ
る。新司法試験の受験資格は修了から5年以内で3回まで。合格率は現試験の
3%台と比べると大幅にアップする。10年まで現試験と並行して実施される。