『河北新報』2006年6月16日付

東北大の国際戦略/目指せシリコンバレー


 産業経済のグローバル化を背景に、国内大学の国際ネットワークづくりが目
立っている。東北大は先月、米カリフォルニア州パロアルト市に、同大では初
のスタッフ常駐の海外事務所を設置。米国の大学、企業、研究機関との共同研
究や技術移転を促進させる考えだ。

 パロアルトという地名はあまり馴染みがないが、半導体、情報技術(IT)
関連企業などが集積するシリコンバレーの一画にあり、コンピューター大手の
ヒューレット・パッカード社などが本社を置く。ベンチャー企業も多く張り付
き、先端技術と情報発信の拠点だ。

 同大は、事務所の事業として(1)大学の研究成果の国際展開支援(2)海
外機関との連携支援―などを柱に据える。同大の「知的財産」を積極的に公開
し、東北大の国際的位置付けを高めるとともに、国際競争力のある研究教育環
境の実現を目指している。

 同大は、これまでも友好関係を結ぶ米ハーバード大、英ケンブリッジ大など
11カ所にリエゾンオフィス(連絡事務所)を置き、国際的連携に力を入れて
きた。だが、今回の事務所は産学連携において、より戦略性が高いオフィスと
言えるだろう。

 さて、こうした大学のグローバル化の動きは東北大ばかりではない。例を挙
げれば、2004年10、11月には一橋大と東大がそれぞれ北京に、大阪大
は04年9月米サンフランシスコ市、05年10月オランダ・グローニンゲン
市に、名古屋大は05年11月上海市に海外事務所を開設している。いずれも
04年度の国立大学法人化を契機にした大学改革の一環でもある。

 少子化に伴う18歳人口が激減し、大学間競争が激しさを増している。自立
性の高い大学経営を実現するためには、国際社会への門戸開放は不可欠。海外
事務所は、国際化による質の高い研究教育環境の実現のほかに、優れた留学生
を確保するための前線基地的な意味合いもあるだろう。

 国も大学の国際戦略に対する支援に乗り出した。05年度から5カ年計画で、
国内大学の国際化基盤整備のために、日本学術振興会と科学技術国際交流セン
ターに委託し、大学国際戦略本部強化事業を展開している。

 この事業は、国内20の大学を選定し、他の大学にも参考になるモデル的な
国際戦略体制を構築しようというもので、東北大が提案したグローバルオペレー
ションセンター(GOC)も認められた。GOCと、これから設立させるだろ
う事務所も含めた海外ネットワークが機能すれば、東北大ブランドの国際的な
評価が高まり、さまざまな相乗効果が生まれるに違いない。東北大を抱える仙
台、宮城、東北にとってもその恩恵は計り知れない。

 100周年を来年に控える東北大。これまでも西澤潤一元学長(現首都大学
東京学長)らが、中心となって世界に誇れる産学連携のモデルを築いてきた。
国際化戦略の延長線上に「日本のシリコンバレー」と呼ばれるような集積がこ
の地にもたらされるような展開を期待したい。