『毎日新聞』2006年6月14日付 女性研究者:育児と両立へ「実験」 支援へ国が補助金、10大学でモデルづくり 女性研究者の出産・育児と研究の両立を支援する事業に、国が乗り出す。今 年度から3カ年で約15億円を、10大学に補助して、モデルづくりを目指す。 「第3期科学技術基本計画」(06〜10年度)は、自然科学系の女性研究者 率を25%に伸ばす目標を掲げた。各大学の取り組みは目標達成の一助になる のか。【元村有希子、下桐実雅子】 ◇男性も働きやすく 10大学の一つのお茶の水女子大(東京都文京区)は、女性研究者が4割を 占める。小学生以下の子どもがいる女性研究者も40人近い。育児と研究を両 立できる環境として「午前9時〜午後5時勤務の徹底」を掲げた。 「夕方の会議を『(保育園の)お迎えに』と遠慮しながら中座するつらさは 当事者でないと分からない」。旗振り役の郷通子(ごうみちこ)学長は言う。 必要な業務を午後5時までに終わらせる意識が定着すれば、男性にも働きやす い大学になると考えている。 支援策は当事者の意見を取り入れ、1年かけて検討した。他人に任せられる 雑務や実験などを、新たに採用する非常勤アシスタント12人が引き受ける。 学内独身寮の3室を「育児宿泊所」に整備し、研究から手が離せなくなった時 に子連れで泊まれるようにする。 「両立」の経験者が学内に多いことを利用して「情報バンク」も作る。提案 した生活科学部の伊藤亜矢子助教授は小学生の子どもの母親。「保育所の選び 方や子連れ出張など、両立する知恵を先輩に教わった。支えてくれる職場の雰 囲気にも助けられた」と振り返る。 お茶大では昨年度、育児のため早く帰宅する研究者(男女)は夕方の授業を 週2コマまで免除され、代替教員が務める制度を始めた。敷地内の保育施設 「いずみナーサリー」に子どもを預けている大学院生には、保育料の半額を 「奨学金」として支給する制度も好評だ。 「これはある種の実験。女性が研究を続けられる環境を3年かけて模索し 『お茶大モデル』として全国に発信したい」と取り組みを指揮する羽入(はにゅ う)佐和子副学長は話す。 ◇数値目標掲げて 一方、女子大ほど女性研究者の比率が高くない大学の多くは、数値目標を掲 げる。 女性研究者比率を現行の11・4%から倍増を目指す北海道大は、女性を採 用すると学部ごとに負担する人件費が3分の2で済む制度を導入。女性の教授 を3人採用すれば、学部としては教授を1人余分に採用できる計算だ。同大赴 任者のパートナーが研究を続けられるように、周辺の大学や研究機関の求人情 報をデータベース化し、職探しを手伝う。こうした支援策を担当する特任教授 を現在、公募中だ。 東京女子医大は、女性が2人1組で勤務できる「ワークシェア」、勤務時間 を最低週25時間とする「フレックス制」を導入し、毎年それぞれ1組、3人 ずつを公募する計画。同大や京都大は、新たに「学童保育」も始める。 日本物理学会の男女共同参画推進委員長を務める山梨大の鳥養映子(とりか いえいこ)教授は「各大学とも先進的な取り組みだ。どこまで実現できるのか 難しさもあるが、過程で問題点を洗い出すことが大切。今回の事業をきっかけ に社会の関心が高まってほしい」と話す。 ◇女性割合、最低レベル−−05年度白書・28カ国調査 05年度の科学技術白書によると、日本の女性研究者の割合は11・9%で、 米国の3分の1、英国の半分以下。調査した28カ国中、韓国と並び最低レベ ルだ。 各国とも助手、助教授(准教授)、教授と昇進するにつれて女性の割合が減 る傾向にあるが、日本は特に大学の自然科学系学部の女性比率が25%と、欧 州(50%前後)に比べて少ない。 文部科学省が05年度調査で、女性研究者が少ない理由を研究者に聞いたと ころ、「出産、育児、介護など家庭事情」が男女ともトップだった。男性の回 答では「研究を志す女性が少ない」が続いたが、女性は「評価、昇進、処遇で 女性が不利」「時間外労働など勤務形態の特殊性」との回答が多く、男女での 見方の違いも浮かんだ。 ============== ■10大学の女性研究者支援事業■ 東京女子医大 保育とワークシェアによる女性医学研究者支援 熊本大 地域連携によるキャリアパス環境整備 京都大 女性研究者の包括的支援「京都大学モデル」 東京農工大 理系女性のエンパワーメントプログラム 日本女子大 女性研究者マルチキャリアパス支援モデル 東北大 杜の都女性科学者ハードリング支援事業 早稲田大 研究者養成のための男女平等プラン 奈良女子大 生涯にわたる女性研究者共助システムの構築 お茶の水女子大 女性研究者に適合した雇用環境モデルの構築 北海道大 輝け、女性研究者! 活かす・育てる・支えるプラン |